世界初アジアナマズのゲノム解読なる
東南アジアで最も長い河川であるメコン川流域にはナマズの一種、俗名カイヤン(学名 Pangasianodon hypophthalmus)が生棲しており、メコン川は内陸の河川漁業区としては世界最大規模を誇ります。特にベトナムではカイヤンを盛んに養殖し、年間約110万トンというこの地域最大の漁獲高を得ています。他の重要な食用魚であるタイセイヨウダラやアメリカナマズは、すでにそのゲノムが解読され、品種改良に向けた努力が始まっていますが、カイヤンにおいてはゲノム科学的なデータはほとんどありません。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者たちは、ベトナム科学技術アカデミーの研究グループと共同で、この度カイヤンの全ゲノムを解読することに成功しました。2018年10月5日付の BMC Genomics に公開された本成果は、カイヤンの種としての進化や、その健全な成長 に関係すると思われる遺伝子を明らかにしています。
「カイヤンのゲノムを解読することによって、それぞれの集団の特徴を容易に解析することができるようになると思います」と、OISTマリンゲノミックスユニットのグループリーダーであり、この研究の共同筆頭著者である將口栄一博士は語ります。「例えば養殖を考える時、集団の中には他のものより病気に強い個体がいるはずで、今回解読されたゲノムをもとにその個体のゲノム的特徴を解析することや、病気への抵抗力に関係する遺伝子を探し出すこともできるはずです。」
今回のゲノム解読は次世代型シーケンサー技術を使い、精度の高いゲノムデータを集積することによって、ほぼ完全なゲノム解読に至っています。アメリカナマズや、カイヤンと近縁な研究用モデル動物のゼブラフィッシュ では、すでにそのゲノムが解読されています。従って、これら3種のゲノムを比較することによって、これらの魚がそれぞれどのように進化してきたのかが見えてきます。
例えば、ゼブラフィッシュは紫外線吸収物質の生産に関わると思われる遺伝子を2つ持っていますが、カイヤンはそれらを失っています。カイヤンは紫外線が届きにくい川の底に棲むために、紫外線から身を守る必要性をなくしたのかもしれません。一方で、カイヤンはゼブラフィッシュより多くのインシュリン様成長因子を作る遺伝子を持っており、このことが大きな体の成長や成熟に関わっているのかもしれません。
また、アメリカナマズのゲノムと比較することによって、カイヤンの仮説的染色体遺伝子地図を作ることにも成功しています。この遺伝子地図を利用して、この2種の種間比較、系統進化の追跡、遺伝子機能の解析などが可能になります。カイヤンゲノムを利用したいと考えていた進化生物学者や水産養殖学研究者は、今それが可能になったのです。
「解読されたカイヤンのゲノム情報によって、近い将来、分子マーカーと呼ばれる品種特有のDNA配列を探しだし、養殖業者はそれを利用することでより効率的かつ経済効果の高い養殖業を営むことができるようになるかもしれません」と、共同筆頭著者でベトナム科学技術アカデミーのOanh T. P. Kim博士は語っています。
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