エネルギー効率を飛躍的に高める革新的なEUVリソグラフィー先端半導体製造技術を発表
この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の新竹積教授が、これまでの先端半導体製造の常識を覆すEUVリソグラフィー(極端紫外線露光技術)を提案しました。
本設計によるEUVリソグラフィーは、小型のEUV光源でも動作するため、コストを削減し、信頼性と寿命を飛躍的に向上させます。また、消費電力は従来の10分の1以下となり、半導体業界のSDGs目標達成にも貢献します。
本技術は、これまでEUVリソグラフィーの分野で実現不可能とされてきた2つの課題に挑戦し、それを克服できることを理論的に証明したことで実現しました。ひとつは、たった2枚のミラーで構成されるプロジェクター光学系であり、もうひとつは、平面ミラー(フォトマスク)上に形成されたロジックパターンに、光路を遮ることなくフォトマスクの前方からEUV光を照射する新たな手法を見出したことです。
EUVリソグラフィーを取り巻く課題
昨今私たちの生活に欠かせない存在となっている人工知能(AI)サーバー用GPUや、携帯電話などのモバイル機器に使われる低消費電力チップ、高密度DRAMメモリなどの先端半導体は、EUVリソグラフィーを用いて製造されています。しかし、その生産現場は大きな課題に直面しています。装置の消費電力の高さ、構造の複雑さによる装置価格の高さ、頻繁なメンテナンスの必要性などです。こうした課題は半導体の生産性に少なからぬ影響を与えます。 新竹教授はこう述べます。「この発明は、このあまり知られてこなかった諸課題をほぼ完全に解決できる画期的な技術です。」
カメラや望遠鏡、そして従来のUVリソグラフィーに見られるように、光学系は基本的に直線上に並んだ軸対称光学部品で構成されています。この方法が最も高い光学性能を達成できるためです。しかし、EUV波は、極めて波長が短いため、このような常識が通用しません。EUVを透過させるガラスのような透明な材料がないため、レンズの代わりに反射ミラーを使う必要があります。しかし多数の反射ミラーを一直線に並べると光はまっすぐに通り抜けることができません。そこで、現在実用化されているEUVリソグラフィーでは、反射ミラーを三日月のような形にし、空いた隙間をぬったEUV光を、往復する光路にそってジグザグに通過させる手法が採用されています。しかしこの方法では、光線が中心軸から遠く離れた所を走るため、数々の光学特性が犠牲になってしまいます。
OISTのリソグラフィー技術では、2枚の軸対称な、中心に小さな穴の開いたミラーを直線上に並べることで、本来の優れた光学特性を達成することができます。
消費電力の大幅削減
EUVエネルギーはミラーでの反射ごとに40%ずつ減衰するため、従来技術では、EUV光源から10枚のミラーを通って、ウェハに到達できるエネルギーは、わずか1%程度となります。このため、EUV光源に高い出力が要求されているのです。高い出力を出すためには、EUV光源用のドライブCO2レーザーに多大な電力が必要となり、同時に膨大な量の冷却水を必要とします。
本技術では、EUV光源からウェハまでわずか4枚(4段)のミラーしかなく、ウェハに10%以上のエネルギーが到達できるため、出力が数十ワットの小型EUV光源でも動作します。これは、消費電力の大幅な削減につながります。
克服された2つの課題
EUVリソグラフィーの心臓部であるプロジェクター(フォトマスクの画像をシリコンウェハに転写する)は、わずか2枚の反射ミラーで構成され、天体望遠鏡に似た構成となっています。「従来のEUVリソグラフィーでは、少なくとも6枚の反射ミラーが必要という固定観念からすると、想像を絶するほど単純な構成です。これは光学の収差補正理論を慎重に見直すことで可能となりました。量子物理学以前の古典物理学の勝利です」と、新竹教授は説明します。さらに、「詳細な性能は光学シミュレーション・ソフトウェア(OpTaliX)を使って検証されており、先端半導体の製造に十分な性能が保証されています」とその性能について語っています。
さらに新竹教授は、「二重露光フィールド」と名付けた新技術で、平面ミラーのフォトマスクを、光路を邪魔せずに正面からEUV光を照射する新方式の照明光学系を考案し、課題を解決しました。これについて新竹教授は、「一見不可能に思えるかもしれませんが、『コロンブスの卵』のようなアイデアで問題を解決しました。例えるなら、2つの懐中電灯を左右の手に持ち、正面の鏡に向かって斜めから同じ角度で光を当てます。このままでは、一方の懐中電灯から出た光は必ず反対側の懐中電灯に当たってしまい、リソグラフィーには使えません。そこで、懐中電灯の角度を変えずに左右の手の位置を外側にずらせば、光は反対側の懐中電灯と衝突することなく通過できるのです」と説明します。2つの懐中電灯は対称に配置され、同じ角度でマスクを照らすため、平均してマスクは正面から照射され、EUVリソグラフィー特有の問題であるマスク3D効果を最小限に抑えることに成功したのです。
本技術は、OISTが特許出願済みで、今後、実証実験を経て産業界で実用化されることが見込まれています。新竹教授は、「世界のEUVリソグラフィー市場は、2024年の89億米ドル (1兆3千億円) から2030年には174億米ドル (2兆5千億円) に、年平均成長率約12%で成長すると予測されており、この特許は莫大な経済効果をもたらす可能性があります」と述べています。
OIST首席副学長で、OIST Innovationを率いるギル・グラノットマイヤーは、次のように期待を述べます。「人類にインパクトを与える最先端の科学を創造することに全力を尽くしています。本技術は、不可能を可能にし、独創的なソリューションを創出するというOISTの精神を体現したものです。この技術の開発にはまだ長い道のりがありますが、私たちは全力で取り組んでいます。沖縄発のこの技術が半導体業界に変革をもたらし、エネルギー消費や脱炭素化といった世界的な課題の解決に貢献することを期待しています。」
参考文献