OIST、モルディブで海の波のエネルギー利用に向けて始動

OISTは、モルディブ共和国環境エネルギー省 、 及び公共建物株式会社と、モルディブにおける波力発電プロジェクト着手に向けた覚書を取り交わしました。

  沖縄科学技術大学院大学(OIST、沖縄県恩納村、学長 ピーター・グルース)はこの度、モルディブ共和国環境エネルギー省 (MEE)及び公共建物株式会社(東京都、代表取締役社長 山下耕平)と、モルディブにおける波力発電プロジェクト着手に向けた覚書を取り交わしました。

  本プロジェクトでは、 持続可能なエネルギー供給を行い二酸化炭素排出量を削減する目的で、波力発電機の試作機をモルディブに導入し実験を行います。実験は、主にMEE及び南マーレ環礁にあるホリデーイン・リゾート・カンドゥーマ・モルディブによる貴重なご支援と協力を得て行うものです。

  OIST量子波光学顕微鏡ユニットを率いる新竹積教授は、2013年にスタートさせた波力発電プロジェクトの一環として、海岸線に押し寄せる波のエネルギーを捉え、使用可能な電気に変換しています。

 

波力発電プロジェクトは、 ホリデーイン・リゾート・カンドゥーマ・モルディブの協力を得て、カンドゥーマ島にて波力発電機実証試験を実施。 赤矢印は実証試験地を示す。南東方向に広がるインド洋から一年中安定したうねりが入ってくる。
Holiday Inn Resort Kandooma, Maldives

  新竹教授の発電機は、自然から得たアイデアを取り込んだ、細心のデザインとなっています。ブレードのデザインと素材は、イルカの尾びれからヒントを得ており、支柱は花の茎を模して柔軟性をもっています。 このような工夫を施した発電機は、砕け散る波の力に耐え得るように作られています。また海中に住む生物の安全も配慮され、ブレードの回転速度は、生物が逃げることができるよう、慎重に計算されています。発電機を平均海水面に設置することで、波のエネルギーを最も効率的に取り込むことも、この発電機の最大の特徴のひとつです。

 

新竹教授と波力発電機のモデル

  モルディブにおける実験では、直径35センチのタービンを備えた 2台のハーフサイズの波力発電機試作機を設置しています。簡素化のため、試作機のブレードは、予定されている柔軟な設計ではなく 、高強度アルミニウム合金のジュラルミンから作られています。 本試作機は、 カンドゥーマ島の南東側の海岸から約50メートルの沖合に設置される予定です。この場所は、環境や景観への影響が少ないよう配慮し選択されました。サンゴが生息しておらず、浅瀬で、サーファーやダイバーが近寄らないホテルの裏側に位置しています。

 

OIST研究室に置かれた、1/2サイズの波力発電機試作機。 簡素化のため、 試作機のブレードはまだ設計通りの柔軟な素材ではなく、 高強度のアルミニウム合金ジュラルミンで作られている。

  「モルディブは3つの理由で、私たちの波力発電機をテストするのに理想的な場所です。」と新竹教授は述べています。まず、モルディブにおける新たな発電方法の必要性です。モルディブは、およそ1,200の島々で構成されているため、中央に大きな発電所がなく、島々の間は送電網もありません。そのため現在は、人が居住しているそれぞれの島々では化石燃料を燃やしてエネルギー供給しなければなりません。

 

環境への影響が最小限で、かつ、波の力を最大限得るよう、細心の注意を払って選択された波力発電機実証実験地。 設置海岸は、ホリデイイン・リゾートカンドゥーマ・モルディブの敷地内に位置している。

  次に、モルディブは、 再生可能エネルギー源の導入と二酸化炭素排出量の削減に強い関心を持っています。 モルディブは環礁からなる群島国家であり、島々の多くは海抜が数メートルしかなく、地球温暖化と南極の氷の溶融による海面上昇で、ほとんどの島が海底に沈むという問題が迫っているのです。「モルディブは、 世界的な気候変動の象徴とも言える場所なのです。」

  三つ目に、モルディブは、その地理的な位置のおかげで、南極からインド洋全体に伝播してくる波を利用するのに適した場所です。沖縄とは異なり、ハリケーンや台風地域には入っていないため、極端な気象条件による発電機の損傷が抑えられます。

 

海面上昇の脅威のため、モルディブは地球規模の気候変動の象徴となっている。

  モルディブにとって、波力エネルギーこそが最適な再生可能エネルギーなのです。波力発電が常に止まることなくエネルギーを提供できるという事実は、太陽光発電のように夜間には発電できない他の再生可能エネルギーよりも優れているということを意味します。そして大型で高価な蓄電システムの必要性もありません。このことは、ホテルが多く存在するモルディブのような島では、ホテルにおけるランドリーや淡水化プラント、そして空調など、夜間にも大きな電力を必要とするために特に重要です。

 

波力発電プロジェクトを支援するホリデイインリゾート・カンドゥーマ・モルディブにて。 左から右に、グレン・クランダル氏、 フセイン・ハミード氏、フセイン・シャヒード氏、ジョセフ・デッラ・ガッタ氏、新竹積教授、ハミッシュ・タガート氏、児山哲典氏。  

  波力発電機の試作機は現在モルディブに出荷中であり、2018年4月に設置される予定です。研究チームはホテルの発電室に電力計測器を設置し、発電量を日本からもインターネット経由で観測する予定です。

  この最初の実証実験の後には、9月に直径70cmのタービンを備えた実物大試作機モデルの発電機が2台設置される予定です。そして長期的には、量産機を多数、モルディブ中に導入することが考えられています。日本の南の島から海外の南の島へと、本発電機の技術移転は、再生可能エネルギーと共にある、環境に優しい未来への一歩となることでしょう。

 

関係論文:

[1] Tsumoru Shintake, "Harnessing the Power of Breaking Waves", Proc. of 3rd the Asian Wave & Tidal Energy Conference (AWTEC2016), October 2016, Singapore, ISBN:978-981-11-0782-5

[2] Tsumoru Shintake et al., "Technical R&D on a Surf Zone WEC", Proc. of 12th European Wave & Tidal Energy Conference (EWTEC2017), August 2017, Cork, Ireland

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