OISTER 海へ発つ
Wave Glider(ウェーブ・グライダー)は今世界中の海洋研究者が注目している次世代型の観測ロボットで、燃料なしに波浪の力を利用して洋上を自在に動きます。"OISTER" という愛称がつけられたWave Glider には各種の観測機器が取り付けられ、本体についているパネルに集められた太陽光による発電でエネルギーを全てまかないます。この度、第十一管区海上保安本部とOISTの海洋生態物理学ユニットの業務協定の一環として、OISTが所有する海洋観測ロボットWave Gliderが、第十一管区海上保安本部所属測量船「おきしお」により8月7日に海に投入されました。今回の投入で沖縄本島と大東諸島の間の海域での観測を開始し、研究や救命救助活動に役立つデータを収集し始めました。また、OISTの研究室から衛星経由で航路などを遠隔操作し、安全航行に努めます。
Wave Gliderが注目されている 理由は、今まで不可能であった観測形態が可能になったところにあります。「今回の投入の大きな目的は、台風時の海の状態をリアルタイムで観測することです」と、海洋生態物理学ユニットの御手洗准教授は言います。沖縄は毎年台風に見舞われつつも、台風時の海水温、塩分濃度、海流などがどのような状態であるかは詳しく観測されていません。衛星からの観測が従来の方法ですが、曇天時の画像は不鮮明になります。その上、他の観測方法を使っても台風の経路変化 などに対応する観測はできませんでした。
台風の実測データを得られるようになったことで、 台風時の救命救助活動や事故対策が進展すると期待されます。現在第十一管区海上保安本部では、海難事故発生時に捜索区域等を決定するために、漂流者がどこにいる確率が高いか、遭難したタンカーから流出した大量の油がどのように流れていくかなどの漂流予測を行っており、この予測の精度を高めるには、Wave Gliderから得られる実測データがとても有効になります。また海洋生態物理学ユニットが進める沖縄周辺の高解像度シミュレーションの高度化にも役立つものと期待されます。
Wave Gliderは、これまで米国を中心に 投入・運用されており、 実例としては、メキシコ湾岸沖の原油流出の進行状況の調査などがあります。日本で本格的に長期運用が行われるのは今回が初めてです。 OISTでは海洋生態物理学ユニット以外でもWave Gliderのデータを活用する計画があります。流体力学ユニットと連続物理学研究ユニットでは、実測データを使って台風の風と海面で起こる摩擦について研究しようとしています。このような研究は、実際台風に近づいて観測することが必要であり、Wave Gliderの登場により可能になりました。今後更なる研究プロジェクトの誕生に期待が膨らみます。
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