新口動物の共通祖先:世界初のゲノム科学的証拠みつかる
佐藤矩行教授率いるOISTマリンゲノミックス・ユニットは、この度米国カリフォルニア大学バークレー校やハーバード大学医学部などとの共同研究で、ウニ(棘皮動物)、ギボシムシ(半索動物)、ナメクジウオ(頭索動物)、ホヤ(尾索動物)、ヒト(脊椎動物)を含む新口動物群が、共通祖先から進化してきたことを示す初のゲノム科学的証拠を得て、Current Biology (カレントバイオロジー)11月6日号(印刷版)にその研究成果を発表します。
私たちヒトを含む脊椎動物は、ナメクジウオの頭索動物、ホヤの尾索動物とともに脊索動物と呼ばれる動物群に含まれています。これらの動物は全て脊索や背側神経管を持つことから、共通祖先から進化してきたものと考えられています(図Aの下の部分)。脊索動物に近縁な動物群としてウニやヒトデなどの棘皮動物、ギボシムシなどの半索動物がいます。この2つは発生様式の類似性などから歩帯動物群と呼ばれています(図Aの上の部分)。また、この歩帯動物と脊索動物は発生の初期で消化管を作るときに、最初に陥入した部分(原口)が将来の肛門になり、口は後に新しく開くという共通点を持つことから、新口動物群と呼ばれています。従って、脊索動物も、新口動物の共通祖先から進化してきたと考えられてきました。つまり、私たちヒトは、新口動物の祖先、脊索動物の祖先、脊椎動物の祖先、哺乳類の祖先を通して進化してきたことになります。
21世紀以降ウニ、ナメクジウオ、ホヤ、脊椎動物のゲノムが解読され、遺伝子や発生の比較から、脊索動物の共通祖先が存在したことはほぼ確かになっています。しかし、新口動物の共通祖先の存在を示す証拠は得られていませんでした。
ほぼ全ての動物の体の前後軸の決定にホメオボックス(あるいはホックス)という遺伝子が重要な役割を担うこと20年程前から分かってきました。面白いことにホックス遺伝子は複数存在し(Hox1からHox13まで)、それが染色体の上で並んでクラスターを形成し、その並び順に体の前後を決めています。とくにナメクジウオはそのゲノム内にきれいに並んだホックスクラスターをもっています。従って、ホックスクラスターを比較することで、動物の進化、近縁性を考えることができます。これまで、ウニ(棘皮動物)のホックスクラスターが明らかにされていますが、残念なことに、ウニのホックスクラスターは遺伝子を一つ失っていたり並びが変化していたりしており、ナメクジウオのホックスクラスターと直接的に比べることができませんでした。
今回の研究で、OISTマリンゲノミックスユニットはヒメギボシムシ、米国の研究チームはコワレフスキーギボシムシを使ってそれぞれが独立して半索動物のホックスクラスターを調べたところ、偶然にも、この両者がそれぞれHox1からHox13に至る12の遺伝子がゲノム内にきれいに並んでいることを発見しました(図B)。つまり、今回の発見とこれまでの知見をあわせると、半索動物と脊索動物にはHox1からHox13に至る12のホックス遺伝子をもった共通祖先が存在し、そこから、歩帯動物、脊索動物がそれぞれ進化してきたと考えることができます。すなわち、これまで、発生様式、幼生や成体の形態の共通性などをもとに言われてきた新口動物の共通祖先性を示す初めてのゲノム科学的証拠が得られたことになります。
<用語説明>
新口動物と旧口動物
動物は体づくりの初期過程で原腸(消化管の原基)を作る際に、原口から細胞が陥入していきますが、この原口が消化管の口になり後で肛門を開く動物と、原口が肛門になり後で口を開く動物がいます。前者を旧口動物(または前口動物)、後者を新口動物(または後口動物)と呼びます。旧口動物には、プラナリア、ミミズ、軟体動物、昆虫などが含まれます。新口動物には上に述べたように、棘皮動物、半索動物、脊索動物が含まれます。
ホックス遺伝子
ショウジョウバエの体づくりに異常を起こすさまざまな突然変異体を解析してみると、体の前後軸にそった器官の形成に関わる遺伝子群の存在が分かってきました。これらの遺伝子から作られるタンパク質は全て共通してホメオボックスという特殊なアミノ酸の並びをもち他の遺伝子の働きを制御する因子として働きます(このことからホメオボックス遺伝子あるいはホックス遺伝子と呼ばれています)。また、ホックス遺伝子は染色体上にクラスターをなして存在しており、遺伝子の並びの順に従って体の前から後ろにかけての器官の形成を制御しています。
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