新研究ユニットの紹介:電子が営むソーシャルライフ

私たちの宇宙は、より広大な宇宙の中の微小な点にすぎないかもしれないと考えたことがありますか。OISTの量子理論ユニットでは、この考えを宇宙よりはるかに小さな規模で追及しています。

 私たちの宇宙は、より広大な宇宙の中の微小な点にすぎないかもしれないと考えたことがありますか。この夢のような空想の背後にある真実を、科学の力で明らかにするのは不可能かもしれません。OISTの量子理論ユニットでは、同じ考えを宇宙よりはるかに小さな規模で追及しています。

 同ユニットを率いるニック・シャノン准教授は「宇宙論者や高エネルギー物理学者の研究領域が宇宙だとすれば、私たちの研究領域は、手の中に収まるほど小さな結晶です。」と話します。量子物質は、独自の物理法則に支配されており、それはまるで広大な宇宙の中の微小な宇宙のようです。これらの小さな宇宙が温度や圧力の変化を受けると、内部の物理法則が変化し、超伝導や磁性などの新たな現象を発現します。

 量子物質内部の物理法則は、電子がどのように相互作用するかによって決まります。銅のような従来の金属では、電子はお互いにほとんど干渉しませんが、量子物質では、電子はシャノン准教授が言うところの「ソーシャルライフ(社会生活)」を営みます。同准教授は「電子は人間と同じように、グループを作って多様に行動するのです。」と説明します。ユニットの主な目標は、グループ行動をとる電子が相互作用によって引き起こす、新たな物理法則を解明することです。

 電子は、地球と同じように自転して独自の磁場を作っています。原子の内部で、ある一方向に自転する電子が反対方向に自転する電子よりも多ければ、その原子には北極と南極を持つ磁気「双極子」が発生します。鉄など従来の磁石では、これらの双極子が整列し、すべての電子が同じ方向に自転して強力な磁場を作り出します。

 しかし、多くの量子物質の電子にとっては、「人生はそう単純ではない」のです。有名な一例「スピンアイス」は、格子状に配列した四面体が各頂点で磁石原子を共有しています。この特別な幾何学的配置に阻まれて、電子は勝手な行動が許されないのです。物理学ではこの現象を「フラストレート磁性」と呼びます。スピンアイスの電子は、グループ社会の中で妥協を余儀なくされ、2つのスピンは各四面体の中心方向へ向き、2つのスピンは中心と反対の外側を向く形に落ち着きます。このような構造が氷の化学結合の配列に大変よく似ているため、この物質は「スピンアイス」と名づけられました。

 シャノン准教授は言います。「磁性原子を半分に割って、『北極』だけを手に入れたと仮定しましょう。私たちはこれを磁気単極子と呼ぶのです。」80年前、英国の物理学者ポール・ディラックは、電荷を理解したり物質を結合させるものを解明したりするための鍵となるのが、磁気単極子であることに気づきました。それ以来ずっと、物理学者たちは磁気単極子を求めて宇宙を捜し求めてきました。そしてついに2009年に、磁気単極子がスピンアイスの小さな宇宙に隠れていることが初めてわかったのです。

 それでは、電子のソーシャルライフを研究することの意味は何でしょうか。

 シャノン准教授の答えはこうです。「私たちが電子について理解する上で画期的な大発見があるたびに、科学技術においても革命が起きているからです。たとえば、物理学者が真空中の電子を制御する法則を発見すると真空管が発明され、それによってレーダー、テレビ、初期のコンピューターなどが実用化されました。同様に、結晶内での電子の行動を理解する画期的な大発見によって、トランジスタやシリコンチップが発明され、それに続いて情報技術が爆発的な進歩を遂げました。」

 同准教授はつけ加えます。「日本政府は、新しい量子物質の開発に多額の投資を行ってきました。日本がこの分野において世界をリードしていることには異論の余地がありません。」シャノン准教授とその研究ユニットメンバーで特別研究学生のオーウェン・ベントンさん、アンドリュー・スメラルド技術員、ルドヴィック・ジョウベルト研究員がOISTへ移籍したことは、今の環境が研究を推進していくために最高の場であることを意味しています。

研究ユニット

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