TRI-PhD SALON キックオフ シンポジウム イベント レポート

新たな産学官連携、国際的な博士人材に焦点

【開催レポート】TRI-PhD SALON:国際的な博士人材に焦点を当てた新たな産学官連携

 2026年4月27日、大阪・APイノゲート大阪にて、「外国籍博士人材の採用・育成サロン(TRI-PhD SALON)」のキックオフシンポジウムが開催されました。定員70名のところ、当日は100名を超える参加登録があり、会場は開始前から高い熱気に包まれました。

「TRI-PhD SALON(Triple-Helix Roundtable for International PhD Talent)」は、その名の通り、産・学・官の三者が螺旋(Triple-Helix)のように絡み合い、互いに学び合うプラットフォームです。外国籍博士人材がその力を解き放ち、日本におけるイノベーションの推進力となるよう、課題やノウハウを共有することをミッションとして沖縄科学技術大学院大学(OIST)と奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)が主導して始めました。

想いから始まったサロン

冒頭の開会挨拶では、サロン代表の谷口直也氏(NAIST)が登壇。外国籍博士人材が日本社会で力を発揮できる「土壌」そのものを整えたい――単なる人材マッチングや制度論にとどまらない、その強く純粋な問題意識が語られました。トップダウンではなく、現場の切実な想いから始まり、賛同が連なって形作られた本サロンの成り立ちは、まさに本取り組みが目指す共創の姿そのものです。このメッセージを起点に、会場の空気は一気に引き締まり、以降のプログラムでは「自分たちに何ができるのか」を軸とした活発な議論が展開されていきました。

Naoya Taniguchi (NAIST) delivers the opening remarks and outlines the purpose of the event. (Photo credit: NAIST)

TRI-PhD SALON キックオフ シンポジウムの開会挨拶ならびに趣旨説明を行う、TRI-PhD SALON代表・NAIST谷口直也氏 (写真提供:NAIST)

産と官からの後押し

続く来賓挨拶では、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)齋藤健児氏より、TRI-PhD SALONに対して「高度外国人材 × 知財・事業化 × 国際ネットワーク」をつなぐ実装側のハブとして機能することへの期待が示されました。
また、内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局の久間木寧子氏からは、博士人材を研究者に留まらない「イノベーションと社会変革の起点」と捉える政策的視点が共有され、TRI-PhD SALONが制度(官)と実装(産)の両輪から期待される取り組みであることが位置づけられました。

多様性は、力になる

基調講演では、塩﨑一裕学長(NAIST)が「Power of Diversity」をテーマに、多様性が共創とイノベーションを生み出す本質を提示。博士人材が研究活動を通じて培う課題解決力や多面的なスキルは、もはやアカデミアに限られるものではなく、社会の多様な現場で価値を発揮できることが力強く語られました。

Kazuhito Shiozaki, President of NAIST, discusses the fundamental power of diversity based on his personal experience studying abroad and innovation through interdisciplinary research. (Photo credit: NAIST)

自らの留学経験や融合研究によるイノベーション事例を踏まえ、多様性の本質的な力について語るNAIST学長 塩﨑一裕氏 (写真提供:NAIST)

続く事業説明では、プカあや氏(OIST)より、大学・企業・行政が連携し、国籍や言語を越えて多様な博士人材が日本に定着し活躍する社会を目指す本サロンの構想と、具体的なアクションプランが示されました。

Aya Puka of OIST, Deputy Head of the TRI PhD Salon, explains the salon’s concrete program content and action plans. (Photo courtesy of NAIST)

TRI-PhD SALONの具体的なコンテンツとアクション計画について説明する、サロン副代表 OISTプカあや氏(写真提供:NAIST)

現場の声が交わり、議論は次の段階へ

プログラム後半では、複数大学によるキャリア支援の取り組み紹介に加え、OIST修了生の アイバン・ンボゴ 氏が登壇し、博士課程で培った課題解決力、コミュニケーション力、適応力、リーダーシップが、研究のみならずビジネスの現場においても実質的な価値を生み出していることを、自身の経験を通して紹介しました。その語りは、博士人材の可能性を具体的かつ鮮明に示すものとなりました。

Dr. Ivan Mbogo, an OIST alumnus, discusses the skills gained through doctoral training that are highly valued by companies. (Photo credit: NAIST)

博士課程を通じて身につく、企業から高く評価されるスキルについて語る、OIST修了生 アイバン・ンボゴ氏 (写真提供:NAIST)

続くパネルディスカッションでは、「日本社会は外国籍博士人材をどのように活かせば国際競争力を高められるか」を軸に、採用・育成・制度連携に関わる多様な立場から率直な議論が展開されました。マッチングを一度限りの採用判断として捉えるのではなく、産学が連携しながら、人材が成長し価値を発揮し続けられる長期的な環境を整える重要性が強調されました。

また、外国籍博士人材を本当に大切にする企業の広がりや、明確な成長機会、意思決定への参画の必要性が指摘されるとともに、大きな制度改革に頼るのではなく、小さな実践や具体例を積み重ねていくことの重要性も共有されました。さらに、外国籍人材の受け入れに加え、日本人学生・研究者を海外へ送り出す双方向の人材循環の必要性も示され、議論は「人を長期的に育て、活かす社会をどうつくるか」という共通の方向性へと収束していきました。

A panel discussion featuring lively exchanges on strategies to enhance Japan’s international competitiveness through the active engagement of international PhD talent. (Photo credit: NAIST)

外国籍博士人材の活躍を通じて日本社会の国際競争力を高める方策をめぐり、闊達な議論が行われたパネルディスカッション(写真提供:NAIST)

マインドセットの転換を確かな手応えに

総評ではキャロライン・ベントン理事(NAIST)より、日本における博士人材比率の低さや、情報発信・言語・制度・研究環境・就労移行といった複合的課題が指摘されました。とりわけ、来日前・在学中・修了後の各段階で十分な情報と支援が行き届いていない現状や、無意識のうちに意思決定から排除されてしまう構造への問題提起がなされました。

閉会挨拶では、トーマス・ブッシュ研究科長(OIST)が、外国籍博士人材は日本で「学ぶ」だけでなく、社会・経済・研究イノベーションに貢献したいという強い意志を持っていることを強調。その可能性を引き出すためには、制度改革だけでなく、大学・企業・行政それぞれのマインドセットの転換が不可欠であり、新しい試みを受け入れ、リスクを取る姿勢こそが鍵であると語りました。

最後には懇親会が行われ、参加者同士の活発な交流が続きました。懇親会の締めくくりには、NAISTの加藤博一理事より、「一歩ずつ進み、着実に達成していく」ことの大切さが語られ、本サロンの精神を象徴する言葉として共有される中、会は大団円を迎えました。

Thomas Busch, Dean of the Graduate School at OIST, speaks on the importance of a mindset shift. (Photo credit: NAIST)

マインドセットの転換の重要性を説く、OIST研究科長 トーマス・ブッシュ氏(写真提供:NAIST)

想いから始まり、議論が熱を帯び、次の行動が具体的に見えた一日


TRI-PhD SALONは、外国籍博士人材を起点に、日本のイノベーションを動かす「実験と実装の場」として、確かな第一歩を踏み出しました。
本サロンの取り組みは、地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)が掲げる「研究力を核とした人材・知・社会の好循環をつくる」というミッションとも強く響き合うものです。大学発の現場起点の試みを産学官連携によって社会実装へとつなげていく――その“実験と実装”を往復する場として、TRI-PhD SALONは、J-PEAKSが目指す次世代の研究力強化モデルを具体的に体現する存在となっていきます。

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