新しい方法へのウォーミングアップ
「さわらぬ神にたたりなし」とことわざにありますが、科学技術が急速な進歩を遂げる現代においては、特に科学の分野において、時には従来の方法を見直してみることが大切です。沖縄科学技術大学院大学(OIST)計算脳科学ユニットのシウェイ・フアン研究員と光学ニューロイメージングユニットのマリルカ・ヨエ・ウーシサーリ研究員は、脳の解剖と薄片化の新しい方法についての論文をオンライン公開のオープンアクセス誌 Frontiers in Cellular Neuroscience に発表しました。この方法では、これまでほぼ不可能とされてきた古い組織での神経細胞の性質を調べることができます。さらに、加齢に関連する脳疾患の領域の研究および神経科学における光遺伝学の実践も容易にします。光遺伝学は、神経細胞の活動を経時的に観察するのに広く用いられている方法ですが、古い組織を観察することが困難でした。
従来の方法では、神経細胞の化学的・電気生理学的・解剖学的性質を調べるために、科学者は組織を4C近くまで冷却します。この温度まで冷却させることが、組織を解剖し薄片化する時間、組織を保持するためには必要です。脳の一部分および新しい組織では、この方法はうまくいきます。しかし、古い組織でこのような性質を調べる時には冷却過程で損傷を受けることがあるという問題に、科学者は長らく直面してきました。
フアン研究員とウーシサーリ研究員は、脳の解剖と薄片化に用いられる保存液を体温近く(約34℃)まで加温することによって、従来の冷却解剖法を用いる場合よりも、古い組織中の神経細胞をより良好な状態に保存できることを見出しました。この加温法は、新しい組織を解剖し薄片化する場合にも、従来法と同じようにうまくいきました。さらに、彼らはブレードの振動を制限する新開発の装置を用いることで、冷却しない状態での脳の断面モデルの作製を容易にしました。
「OISTで利用できる技術の性能を最大化するために解剖法を見直すことによって、私たちは従来の方法では調べることが難しかった成熟神経細胞や老化神経細胞を容易に調べることができるようになりました。」と、フアン研究員は述べています。
広報・取材に関するお問い合わせ
報道関係者専用問い合わせフォーム