上昇する海水温が熱帯魚に与える影響
2016年、海水温の急激な上昇により、オーストラリアのグレートバリアリーフが壊滅的な被害を受けました。人間活動が引き起こす気候変動により、海洋熱波の頻度・期間・規模が増していますが、そうしたことが自然の魚の数に及ぼす生理学的・行動的・長期的影響の全容は把握できていません。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)海洋気候変動ユニットは、オーストラリアのジェームズ・クック大学ARCサンゴ礁研究センター及び香港大学との共同研究で、2016年の海洋熱波発生時とその前後に採集した、サンゴ礁に生息する5種の魚の遺伝子発現パターンを調査しました。その結果、海水温上昇に対する種固有の生理学的反応を特定し、これらの反応が熱波の強度と期間に影響を受けたことを発見しました。
これらの反応の変化は、海洋熱波の発生頻度が増加するにしたがって、魚の適応度および海洋生態系の健全性に長期的な影響を与えることを示唆しています。本研究結果はScience Advancesに掲載されました。
魚の採集・分析
研究チームはオーストラリア北東部沿岸沖に位置するリザード島で、サンゴ礁に生息する2科5種の魚の試料を採取しました。採取は海洋熱波の発生前である12月と、発生初期の2016年2月、魚が高い海水温に長期間さらされた後の2016年7月に行われました。
本研究では、個体数が多く捕獲が容易なスズメダイとカーディナルフィッシュを用いました。スズメダイは昼行性ですが、カーディナルフィッシュは夜行性で、海水温が低い夜間に活動し採食します。
研究者たちは凍結した魚の標本を研究室に持ち帰り、肝臓の遺伝子発現パターンを分析しました。すると、熱波にさらされた期間が長いもの、短いもののどちらにも、代謝・ストレス・呼吸に関連する分子レベルでの変化を認めました。
さらに、これらの分子レベルの証拠では、気候変動に順応または適応する方法には遺伝的背景が大きく影響し、脆弱性は種によって異なるため、海水温上昇に対する反応は熱帯魚の種によって違うことがわかりました。
「飼育されていた魚を対象に実験した場合だと、地理に基づいて一般化することはできません。数少ない魚を研究室内で実験した結果も同様です。その意味で今回得られた異なる反応は重要であり、政策決定者や漁業関係者にも影響を持つものと言えるでしょう。」と本研究論文の共著者であるティモシー・ラバシ教授は説明します。
なお本研究は、海洋熱波に対する魚の生理反応は、種に関係なく、熱波の強度と期間に依存することを発見しました。
今後、ラバシ教授ら研究チームは、人為的気候変動が即時的に魚に与える影響の調査を継続し、海水温上昇の繰り返しが、魚と、その長期的な適応に与える影響を研究していく考えです。そのために、管理された環境下で熱波をシミュレーションし、温度の違いや期間の違いがどのように魚に影響を及ぼすのかを研究することにしています。
気候変動の長期的影響を調査することも重要ですが、本研究は短期的影響の重要性を強調しているとラバシ教授は述べています。
「時間の経過とともに、魚は海水温の上昇に適応する、もしくは水温の低い海域に移動するかもしれません。しかし海洋熱波は今起こっているわけですから、私たちは熱波がもたらす即時的な影響を理解することが必要です。」
専門分野
研究ユニット
広報・取材に関するお問い合わせ
報道関係者専用問い合わせフォーム