サンゴの日を前に―OISTサンゴプロジェクト、一年目の取り組み

地元の皆様とともに、科学の力で沖縄のサンゴ保全に取り組む。

OIST coral project series header

 世界各地のサンゴ礁とは異なり、沖縄では、サンゴ礁を見るためにわざわざボートに乗る必要はありません。近くのビーチまで歩いて行き、目の前の透明度の高い海をひと泳ぎするだけで、すぐに生き生きとした海の中の世界を垣間見ることができます。 

しかし、沖縄の年配の方々は、今よりもサンゴが多く、海がもっと豊かだった頃を覚えていらっしゃいます。特に、近年サンゴが著しく減少している浅瀬は、以前とは非常に異なる光景だと言います。世界中で、人間の活動によって、サンゴの個体数はここ10年で驚くほど減少しています。そのため、サンゴ植え付けなどの取り組みが活発化しています。 

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、沖縄のサンゴ礁の生物多様性を研究し、保全することを目的とした非営利の活動、「サンゴプロジェクト」を2023年7月に立ち上げました。これまでに、県内外の企業20社の協力を得ることに成功しましたが、その使命をさらに推進するためには、より多くのパートナーが必要です。 

アイデアから始まる 

2023年1月、OISTでマリンゲノミックスユニット を率いる佐藤矩行教授は、ファンドレイザーとして豊富な経験を持つOISTの佐藤士文アドバンスメント・オフィサーと会話する中で、沖縄のサンゴの植え付けや保全を目指す新たなプロジェクトとして、ゲノムと環境DNA(eDNA)の知識を役立てるというアイデアを思いつきました。ここから、沖縄と東京、地元住民と企業をつなげ、協働の可能性を生み出すことで、地元の海洋生物を保護するという革新的な取り組みがスタートしました。 

佐藤教授とマリンゲノミクスユニットの研究チームは、2011年にサンゴ2013年にサンゴに共生するカッチュウソウ(褐虫藻)2017年にオニヒトデ(サンゴを食い荒らすことで知られる)の全ゲノムを解読し、ゲノム研究における著しい成果を達成してきました。こうした研究は、世界のサンゴ礁生態系の研究に大きく貢献しています。 

佐藤教授は、これまでに得られた知識をもとに、沖縄の特定の場所に植えるのに最適なサンゴの種類を特定しました。「今年2月、うるま市の平安座島と、南城市のあざまサンサンビーチの2か所でサンゴの植え付けを開始しました。目標は1年以内にサンゴ1,000本を植えることです」と佐藤教授は話します。また、3か所目となる座間味島でもサンゴの植え付けを開始する予定です。 

サンゴの植え付けは沖縄県から許可を得て、厳格なサンゴ植え付け規定に従い、専門の業者が行います。植え付け場所は、それぞれ異なる漁業協同組合によって監督され、独自のチーム・体制で運営されています。植え付けに先立ち、佐藤教授は漁業協同組合と交渉し、プロジェクトの目的とメリットを説明します。海への深い理解と敬意を持つ漁業者の方々は、サンゴプロジェクトの重要なパートナーです。佐藤教授は、漁業者の方々の支持を得るために尽力し、植え付けの許可を得ました。 

サンゴプロジェクトの活動は、サンゴの植え付けだけにとどまりません。OISTの科学者たちは、サンゴの環境DNAモニタリングも行い、植え付け後に新たなサンゴ礁にやってくる魚たちを調査し、どの種が増加傾向にあるのか、あるいは減少傾向にあるのかを観察しています。このようなプロジェクトの多層的な側面は、佐藤アドバンスメント・オフィサーと佐藤教授が誇りとしている点です。 

「サンゴプロジェクトは、沖縄とSDGsに貢献するというOISTの重要な目標に合致しています。私たちの活動の中に、沖縄に対する私たちのコミットメントを感じていただけると思います」と佐藤教授は説明します。 

サンゴ保全のための「コーズマーケティング」 

サンゴプロジェクトを立ち上げて以来、佐藤アドバンスメント・オフィサーは沖縄や日本本土の企業との関係を構築し、特に寄付を通じて、この取り組みへの支援を呼びかけてきました。 

このプロジェクトの独自性は「コーズマーケティング」です。これは、企業が非営利の活動への協力を通して、社会問題や価値観など、特定の社会的大義と結びつけるアプローチです。企業は同じ問題に関心を持つ人々とつながることで売り上げを伸ばし、同時に非営利の活動を促進します。  

「サンゴプロジェクトは、国内トップシェアを誇る最大手の携帯電話会社NTTドコモを含む東京と、地元沖縄に根付く企業8社を最初のパートナーとして始まりました。より多くの支援を得るために努力を重ね、パートナー企業はわずか1年で8社から20社に増えました。プロジェクトをご支援くださっている企業・個人の皆様に感謝申し上げます」と佐藤アドバンスメント・オフィサーは語ります。 

パートナー企業は、プロジェクトのオリジナルロゴを使用することができ、ロゴを商品などに表示することで、自社の沖縄のサンゴ礁保全への支援を目に見える形で示すことができます。 

サンゴプロジェクトのロゴ
サンゴプロジェクトのロゴは、パートナー企業が沖縄のサンゴ礁保全を支援していることを示すために使用できます。消費者は、そのロゴのついた商品などを購入することが、価値ある活動の支援につながることを知ります。ロゴデザイン:ジェフリー・プライン(OIST)

県内最大手のセメント製造会社である琉球セメント株式会社は、セメント袋にロゴを表示し、セメントの売上の一部をプロジェクトに寄付しています。また、日本を代表するかりゆしウェアの会社MAJUNは、サンゴプロジェクトのロゴが刺繍された綿100%のオリジナルかりゆしウェアを制作しました。プロジェクトの会員になることで、サポーターはこのユニークなかりゆしウェアを手に入れることができます。 

セメントの袋にサンゴプロジェクトのロゴを使用している琉球セメント株式会社
琉球セメント株式会社は、セメントの袋にサンゴプロジェクトのロゴを掲載し、売上の一部を寄付することで、プロジェクトを支援しています。 
MAJUNがデザインした「サンゴプロジェクトかりゆしウェア」
かりゆしウェアのリーディングカンパニーであるMAJUNは、ロゴ刺繍入りオリジナル綿100%かりゆしウェアをプロジェクトメンバーに提供。

「また、株式会社ナムラ様のご協力で、那覇市のナムラビジョンIの巨大LEDビジョンで、サンゴプロジェクトの30秒動画を放映しています。毎日20回以上、放映されており、多くの方に見てもらえています。」と佐藤アドバンスメント・オフィサーは言います。日本語の動画はYouTubeでもご覧いただけます。 

那覇市のナムラビジョンIの巨大LEDビジョンでサンゴプロジェクトの動画が毎日上映。
那覇市のナムラビジョンIの巨大LEDビジョンにサンゴプロジェクトのストーリーが映し出され、毎日20回以上上映されている。YouTubeでも視聴可能。

「サンゴの村宣言」「SDGs未来都市」恩納村との連携 

2018年、OISTのある恩納村は「サンゴの村宣言」を行い、2019年には日本政府から「SDGs未来都市」に選ばれました。恩納村でのサンゴの植え付けは20年前にさかのぼります。2004年、地元住民と本土企業が参加し、地元組織「チーム美らサンゴ」が結成されました。サンゴの減少に対応するため、村内で毎年平均1000本のサンゴを植え続けています。 

OISTサンゴプロジェクトは、地元のチーム美らサンゴともつながり、サンゴ植え付け活動支援のため、協働していきます。佐藤教授は「OISTサンゴプロジェクトの特徴は、ゲノムや種に関する知識についてより科学的な方法を取り入れていることです」と説明します。佐藤アドバンスメント・オフィサーは「私たちは様々な組織とパートナーシップを組むことに前向きです。方法は違っても共通の目標があると認識しています。多くの方々との友情と支援があれば、プロジェクトを拡大することができます」と指摘しました。 

OISTサンゴプロジェクトには最近、OISTで海洋気候変動ユニットを率いるティモシー・ラバシ教授も加わりました。ラバシ教授のユニットでは、最新のゲノミクス手法を駆使し、海洋生物がより温暖で酸性度の高い海洋にどう適応するかを研究しています。ラバシ教授の専門知識は、サンゴ礁が将来の海洋条件にどのように対応するかをより深く理解し、サンゴ礁の健全性と多様性のモニタリングの助けとなるでしょう。 

サンゴプロジェクトを牽引する(左から)ティモシー・ラバシ教授、佐藤矩行教授、佐藤士文アドバンスメント・オフィサー。
沖縄のサンゴの生物多様性を保全する非営利活動サンゴプロジェクトを牽引する(左から)ティモシー・ラバシ教授、佐藤矩行教授、佐藤士文アドバンスメント・オフィサー。
マール・ナイドゥ(OIST)

沖縄のサンゴ保全活動の裾野を広げる 

佐藤アドバンスメント・オフィサーは、プロジェクトの成功の裏には、主に二つの要因があると考えています。まず一つに、佐藤教授のサンゴに関する専門知識と熱意、支援者の方々をひきつける温かい人柄があります。二つ目に、プロジェクトの重要性を認識し、その成功に貢献したいと考える多くの関係者の支援が得られたことです。佐藤アドバンスメント・オフィサーは、日本における慈善活動の推進に意欲的で、サンゴプロジェクトを地球に恩恵をもたらす慈善活動としてとらえています。「沖縄の人々はサンゴを大切にし、サンゴ礁を以前のような美しく健康な状態に戻したいと考えています。私たちは、科学の力を使ってその想いを支えたいと考えています」 

「このプロジェクトを紹介するとき、沖縄と環境への恩恵について話し、企業の収益性とブランドイメージにプラスに働く可能性があることを強調しています。企業の方々も、環境への取り組みが企業のイメージやブランドを向上させることをご存じです。わずか1年で参加企業が急激に増えたことを大変ありがたく感じています」と佐藤アドバンスメント・オフィサーは話します。 

佐藤アドバンスメント・オフィサーと佐藤矩行教授は、プロジェクトを沖縄各地に、そして海外に拡大することを熱望しており、すでに海外からサンゴの植え付けに関して問い合わせも受けています。得られた知識やノウハウを共有し、他の人たちが自分たちの取り組みを再現できるようにしたいと考えています。二人は、このプロジェクトに関心を示し、支援してくれたすべての人々に感謝の意を表しています。 

サンゴプロジェクトの会員になることで、個人や企業が沖縄のサンゴの保全と研究を支援いただけます。詳しくはこちらをご覧ください。

広報・取材に関するお問い合わせ
報道関係者専用問い合わせフォーム

シェア: