ゆっくり回転すれば、より大きな輝きに
ハロウィーンが終わり、街中のディスプレイは早くもクリスマス一色に変わりつつあります。暗闇の中で輝く装飾品の「ルミネッセンス」と呼ばれるこの不思議な輝きは、化学的および生化学的反応によるものだったり、材料中の電子が光を受けて、より高いエネルギー状態に励起されることで生じたりします。後者の発光は「フォトルミネッセンス」と呼ばれ、蛍光顕微鏡の検査や様々なセンサーの開発に広く使用されています。
この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の錯体化学・触媒ユニットの研究者らは、銅を有機分子と組み合わせることによって、フォトルミネッセンスを示す新しい金属錯体を発見しました。さらに、有機分子のサイズを変えることによって、放出される光の明るさを制御することができます。本研究は、Inorganic Chemistry 誌に掲載されました。
従来、発光性金属錯体は、時計や時計のダイヤルなどに使用するため、プラチナ、ルテニウム、オスミウム、レニウム、イリジウムなどの材料を用いて合成されてきました。しかしながら、これらの貴金属は非常に高価であり、合成した化合物は取り扱い上、有毒物質でもあります。一方、銅錯体は安価な代替物で、科学者らが容易に操作できる構造を持っています。
本研究でOIST研究者らは、有機分子すなわちリガンドを持つ銅原子に、異なるアミン基を組み合わせることによって、発光性銅錯体を合成しました。「銅錯体を構築するプロセスは単純なものであり、適切なリガンド合成から始まります」と研究の筆頭著者であり、ポストドクトラルスカラーのパティル・プラドニア博士は説明します。博士は、N-メチル、N-イソブチル、N-イソプロピルおよびN-tert-ブチルの4つの類似したリガンド分子を合成しました。それぞれサイズは異なり、N-メチル分子が最も小さく、N-tert-ブチル分子が最も大きくなっています。
この研究の背後にあるアイデアについては、何年も前にジュリア・クスヌディノワ准教授が思いついていました。 准教授が博士課程後期の研究をしていた頃、本研究で使われてるリガンド分子が、分子形状および動きにおいて、多くのバリエーションがあり、金属原子と柔軟に結合を形成することを発見していたのです。
次に、4つのリガンド分子を銅と結合させて金属錯体を作製し、X線回折およびNMR分光法などの高度な技術を用いて分子構造を調べ、分子サイズを同定しました。N-メチルを含む最小の銅錯体は、他の3つに比べてより柔軟で、かつ迅速に動きましたが、N-tert-ブチルとの銅錯体は、より大きい分子構造のため、動きも最も遅いものでした。そしてこの時、驚いたことに、分子の動きが遅いほど、放出される光がより強くなることを研究者らは発見したのです。
この新たな発見を踏まえ、さらに、銅錯体と類似の構造を有する分子をポリマーに組込み、より広範な用途に使用できるようにしました。 これにより、材料が機械的な応力や歪みに晒された際、より明るく輝く分子プローブを作製することができたのです。 「このような材料は、材料が実際に破損する前に、磨耗および裂傷を検出するのに役立つので、建築材料の不具合を防ぐ新しい方法を編み出す可能性を秘めています。本研究は、このような応力検出のメカニズムについて光を当てているのです。」と、クスヌディノワ准教授は説明しています。
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