OIST発ベンチャー第一号の誕生
この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の構造細胞生物学ユニット代表のウルフ・スコグランド教授が開発したタンパク質等の分子構造の3次元可視化技術を活用したOIST発ベンチャー第一号として、沖縄プロテイントモグラフィー株式会社(代表取締役社長:亀井朗)が6月25日に設立されました。同社は、OISTが所在する沖縄県恩納村を拠点に国内外の市場に向けて 受託解析事業を展開します。同社の設立は、スコグランド教授の技術の事業化を目指した文部科学省の大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)の成果であり、7月23日には、沖縄県内のベンチャーを支援する、おきなわ新産業創出投資事業有限責任組合(無限責任組合員バイオ・サイト・キャピタル株式会社(BSC)代表取締役谷正之)が、同社へ10百万円を出資しました。今後沖縄プロテイントモグラフィー株式会社は、OIST発の最先端技術を核として、沖縄県の自立的発展に寄与するグローバル企業を目指していきます。
技術
「これはブレイクスルーを起こす新しい技術です。創薬のための新しい基盤技術に成長していければと思っています」と語るのは技術開発者のスコグランド教授です。今回OIST構造細胞生物学ユニットから沖縄プロテイントモグラフィー(株)に移転されるのは、電子線トモグラフィーと呼ばれる電子顕微鏡を用いた3次元再構成法と、同教授が独自に開発した3次元構造解析プログラム(COMET)を組み合わせた、タンパク質などの生体高分子の多様な構造を1分子レベルで可視化する基盤技術(プロテイントモグラフィー技術)です。現在の解像度は、約1.5nmに達しており、今後も飛躍的な向上が見込まれています。一般に製薬会社ではヒトの細胞の表面にあるタンパク質の構造解析を通じて、そのタンパク質に結合するような化合物を設計し、宿主細胞に侵入しようとするウイルスやバクテリアの侵入を食い止める医薬品の開発を目指しています。スコグランド教授の技術では、タンパク質などの生物試料を結晶化することなく観察できます。そのため、解析期間が大幅に短縮し、費用も安価におさえることができます。また、1分子レベルでの可視化が可能なため、結晶化が困難な大型のタンパク質複合体を含め、これまで解析が不可能であったタンパク質の構造やその変化も明らかにすることができます。タンパク質構造解析の究極の目的は、治療に適した新しい医薬品をデザインすることです。本技術を創薬プロセスのあらゆるステージで活用することによって、プロジェクトを評価する判断材料を製薬企業などに提供し、医薬品のより効率的な開発に寄与できるといえます。
事業化に向けた取組
OIST初のベンチャー企業誕生は、平成24年度文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)においてスコグランド教授のプロジェクト「分子分解電子線トモグラフィーによる巨大分子の3次元可視化」が採択されたことで第一歩を踏み出しました。「STARTは大学とベンチャーキャピタルがパートナーシップを組んで技術の事業化に取り組むこれまでにない画期的な制度です。ベンチャー第一号の誕生に向けて、約2年間、バイオ・サイト・キャピタル(株)(BSC)と二人三脚で準備をしてきました。市場性の評価、顧客の開拓、CEOの選定など、彼らの支援がなければ実現しなかったと思います」と、OISTで事業開発・技術移転事業を担当する市川尚斉マネージャーは語ります。また、STARTの事業プロモーターを担ったBSCの谷正之社長は、「スコグランド教授の熱意と技術の革新性を評価しました。これはオンリーワンの技術であり、その技術を活用し、沖縄を拠点にグローバルなビジネスを展開するベンチャー企業の設立を目指してきました」と振り返ります。BSCは沖縄プロテイントモグラフィー(株)へ2名の役員を派遣しており、今後は株主として同社の事業展開を支援していくことになります。
沖縄プロテイントモグラフィー株式会社の事業
同社の事業モデルは、受託による分子構造解析サービスとなり、顧客から受け取った各種サンプル(タンパク質)の分子構造を3次元で可視化した解析結果を顧客に納品します。亀井社長はCEOを引き受けるにいたった経緯について、「友人を通じてOISTベンチャーの話を知り、関係者と話す中で、技術の圧倒的な新規性と大きな市場の可能性を感じ、チャレンジしてみることにしました。まだ誰も見たことのない微小な世界が見えるようになる夢を感じさせるプロジェクトです。最先端の技術は浸透するまでに時間がかかりますが、着実に進めていきたいと思います」と抱負を語っています。
OISTは、国際的に卓越した科学技術に関する教育及び研究を実施することにより、沖縄の自立的発展と、世界の科学技術の向上に寄与することを目的としています。OISTで研究開発された知的財産を活用したビジネスを展開することで、企業の集積を促し、沖縄に国際的な知的産業クラスターを形成することを視野に、今回のベンチャー企業設立をその一つの事例として位置づけ、着実な成長を目指していきます。
参考
社名:沖縄プロテイントモグラフィー株式会社(略称:沖縄PT)
設立:平成26年6月25日
本社:沖縄県うるま市
事業所:沖縄県恩納村
資本金:10百万円(資本準備金10百万円)
役員:代表取締役社長 亀井 朗
取締役 福田 伸生(BSC)
取締役 原 一広(BSC)
取締役 平井 昭光(弁護士)
技術顧問 ウルフ・スコグランド(OIST)
事業内容:高分子構造解析・可視化技術を用いた受託事業 ほか
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