カスタムメイドのナノ粒子
今や半導体から衣料品などあらゆるものに使われているナノ粒子は1-100nmの大きさで、タンパク・抗体・細胞膜受容体などの生体分子と同等の大きさです。このようにナノ粒子は生体分子と大きさが類似しているため、生体分子の機能を擬態することができ、生物医学分野においての活用が注目されています。
OISTナノ粒子技術研究ユニットを率いるムックレス・ソーワン准教授は、アイルランド・ギリシャ・インド・イギリス・ペルー・韓国・パレスチナ・フランス・スペイン・日本など世界各国から集った研究者たちと共に医学分野などで活用できる多成分ナノ粒子の研究を進めています。そしてこの度、同研究グループは新たな手法を使うことで多成分ナノ粒子のデザインと製造に成功したと学術誌Scientific Reportsに10月30日付けの論文で発表しました。
複数の成分を統合して作る多成分ナノ粒子は、各成分の特性を併せ持つため更に強力な研究ツールとなります。例えば、薬物を体内で輸送できる単成分ナノ粒子があったとしても、健康な細胞と異常のある細胞の識別がつけられなかったところを、多成分ナノ粒子は識別を可能にする成分の特性も兼ねそろえることで、より効率的な薬物配達を可能にします。
今回の研究で、OIST研究者らは多成分ナノ粒子を製造するために特別に設計された最先端の研究機器を用いてシリコン-銀ナノ粒子を製造しました。シリコンと銀は異なった光学的性質を持ち、両者の独特な光学的性質を併せ持つシリコン-銀ナノ粒子はバイオイメージングやバイオセンサリングに大変有用です。シリコン-銀ナノ粒子の場合、銀の性質により特定の生体反応が起こっているかが分かり、シリコンの性質によってナノ粒子の位置を確認することなどができます。
更に、ソーワン准教授のチームは、ナノ粒子の形状と構造だけでなく、性質の特徴までもカスタマイズすることができます。もちろんサッカーボールの千万分の一の大きさであるナノ粒子を設計することは容易ではありません。多成分ナノ粒子はこれまで違う手法によって製造されましたが、ナノ粒子研究ユニットほどの純正さや制御性は得られていませんでした。ソーワン准教授らの手法によって、多成分ナノ粒子の形状と構造、及び粒子を構成する原子配列の整然性の指標である「結晶度」を自在にデザインすることが可能となりました。今回の研究では、銀を用いてシリコンの結晶度を制御しました。結晶度を制御することによって、ナノ粒子の光学的・電気的・化学的性質が微調整できるのです。「これぞ技術革新です。これからは自由自在にナノ粒子の特質を定めることができます。」とソーワン准教授は述べました。