次世代型COナノセンサー
一酸化炭素(CO)は有毒ガスの一つで、その排出は大気汚染の原因にもなるため、空気中のCO濃度を素早く検知することは非常に重要です。しかし、炭素系燃料(調理用ガスやガソリン等)の不完全燃焼により発生するこの気体は、無味・無臭・無色であることから検出が難しいとされています。空気中のCO濃度を測定することができるセンサーの開発が複数の研究機関で進められている中、沖縄科学技術大学院大学(OIST)とフランスのトゥールーズ大学の共同研究チームがこの度、新型COセンサーの画期的な作製手法を見出しました。
共同研究チームは、COを検出するツールとして微小酸化銅ナノワイヤーを用いました。酸化銅が一酸化炭素と化学反応を起こし、それにより生じた電気信号を利用してCO濃度を測定することができます。これらのナノワイヤーの太さは、平均的なヒトの毛髪の太さと比べて1000分の1以下という非常に細いものです。
今回の研究では、ナノワイヤーの利用に向けて超えなくてはならない壁が2つありました。「1つは扱いやすく大量生産が容易な大きめの装置にナノワイヤーを組み込むことでした」と、OISTナノ粒子技術研究ユニットを率いるムックレス・ソーワン准教授は説明します。「2つめはそのような装置に組み込むナノワイヤーの数と設置場所を制御することです」。これら2つの課題は、OISTのステファン・シュタインハワー研究員とソーワン准教授等による今回の共同研究によって克服された可能性が高く、その研究成果がこのほど米化学誌「ACS Sensors」で報告されました。
「酸化銅ナノワイヤーの生成には、隣接した銅の微細構造を加熱する必要があります。温められた微細構造からナノワイヤーが徐々に成長し、隣り合った微細構造との隙間を埋めようとします。すると微細構造間に電気的接続が生じます」とシュタインハワー博士はナノワイヤーの生成過程を説明します。「このような微細構造を、トゥールーズ大学が開発したマイクロホットプレート上に組み込みました。このマイクロプレートは摂氏数百度まで加熱可能な薄膜であるにもかかわらず、消費電力を非常に低く抑えることができます」。このマイクロホットプレートの利用により、ナノワイヤーの生成数や配置のより正確な制御が可能となります。また、ナノワイヤーを通る電気信号からデータを読み取ることができます。
今回の研究では、超低濃度のCOを検出できる極めて高感度な装置の作製に成功しました。「酸化銅ナノワイヤーをマイクロホットプレートに組み込んだ小型COセンサーが、今後の次世代ガスセンサーの開発に繋がる可能性があります」とソーワン准教授は言います。「他の技術と比べて、私たちの手法は費用対効果が高く、大量生産にも適しています」と期待をにじませます。
今回見出した新手法は、検出器の耐用年数についての理解にも役立つ可能性があります。検出器の性能は経年変化により低下します。これはガスセンサーの開発における難問の一つです。新手法により入手したデータの分析をおこなえば、このような現象に潜むメカニズム、ひいてはセンサーの寿命についての理解を深めることができるかもしれません。従来のガスセンサーの作製手順では、研究者がまずナノワイヤーを生成し、次にそれを装置に繋げなくてはなりません。このような設置作業が済んだうえでようやくCO濃度の測定を開始することができます。一方で、「私たちの手法を用いれば、特定の環境下でナノワイヤーを生成後、瞬時にガス検知機能を作動させることができます」とシュタインハワー博士は述べ、「つまり、(ナノワイヤーを)生成した後、そのままの配置で素早くガスの検出に移ることができるということです」と、従来型のCOセンサーとの違いを強調しました。