カクレクマノミの仔魚の大冒険:大奮闘のミニ・アスリートたち

研究チームは、カクレクマノミが仔魚から変態を経て成魚へと成長する過程と野生環境での生存に甲状腺ホルモンがどのような役割を果たしているのかについて明らかにしました。

海洋魚類の仔魚は、熾烈な生存競争を勝ち抜くためアスリートのよう大奮闘をする必要があります。仔魚は、「変態」と呼ばれる極めて重要な過程を通らなかれば、成魚へ成長することができず、種を存続することはできません。  

大きさ2ミリほどの非常に小さく透明な仔魚は、卵からふ化した途端に広大な青い海に放り出され、冒険の旅が始まります。仔魚は、孵化して数日から数週間にかけて、見たこともない世界で泳ぎ続けながら、エネルギー源となる餌を捕り、捕食者から逃れ、方向を定めるために感覚器官を発達させなければいけません。そして、仔魚は、最終的に海岸近くの海域で棲みかに相応しい場所を見つけるという、最大の目的を達成しなければいけません。 

この間に、仔魚は、成長する中で「変態」という大変身を遂げ、さらに成長し、稚魚となって沿岸の新しい環境に臨みます。 

では、仔魚は、「変態」という大きな出来事の中で、体内に起こる様々な変化をどのように調整しているのでしょうか? OISTの研究者を含む国際的な研究グループは、海洋生物の中でもよく知られているカクレクマノミ(Amphiprion ocellaris)を対象にし、甲状腺ホルモンが「変態」の調整に果たす役割を明らかにしました。

研究グループは、カクレクマノミの変態において、細胞内における食物をエネルギーに変換する過程である代謝過程と甲状腺ホルモンとの間に強い相互作用があることを発見しました。つまり、カクレクマノミは、飼育下でも野生環境下でも利用可能な環境資源に応じて、甲状腺ホルモンにより必要なエネルギーの変換を調整することができるということです。 

イソギンチャクに身を潜めるカクレクマノミのつがい。
イソギンチャクに身を潜めるカクレクマノミのつがい。カクレクマノミはイソギンチャクに餌を与え、イソギンチャクはカクレクマノミを保護するという共生の関係にある。       提供:マノン・メルキャデー博士(OIST海洋生態進化発生生物学ユニット) 
OIST研究室で飼育しているカクレクマノミのつがい。  提供:ナターシャ・ルー博士(OIST計算行動神経科学ユ ニット)   

この研究を行ったOISTのナターシャ・ルー博士、ヴィンセント・ラウデット教授、三浦さおり博士、多良勇輝さん、Mathieu Reynaudさん、アグニーシュ・バルア博士とフランス、台湾、米国の大学の研究者によるグループは、研究成果を共同で論文にまとめ、「The multi-level regulation of clownfish metamorphosis by thyroid hormones(甲状腺ホルモンによるカクレクマノミの変態の多層的な制御)」というタイトルで学術誌Cell Reportsに発表しました。 

研究グループは、さらに、甲状腺ホルモンが変態そのものの誘発に関与しているだけでなく、変態中に起こる様々な器官の変化や過程の調整に大きな役割を果たしていることを発見しました。その例として、色覚、消化、骨化(骨芽細胞という骨組織において骨形成を行う細胞が新しい骨の材料が作られること)、色素沈着、仔魚の代謝、食物からエネルギーを生産する能力などが挙げられます。また、仔魚は、餌となる食物が成長とともに変化していくため、、それに合わせて食物からエネルギーを生産する能力も変化します。 

ふ化後6日目のカクレクマノミの仔魚
ふ化して6日目のカクレクマノミの仔魚。全長は、4ミリメートル。 提供:ナターシャ・ルー博士 

この論文の筆頭著者であるOIST計算行動神経科学ユニットの研究者ナターシャ・ルー博士は、「甲状腺ホルモンは、特定の遺伝子をオンにしたりオフにしたりできるスイッチのようなものです。私たちは、代謝を制御するといわれる特定の遺伝子をオフにした場合変態の過程にどのような影響が出るかを調べました。また、カクレクマノミの仔魚において、変態を促進した場合の外見の変化についても調べました」と説明しています。 

OISTの海洋生態進化発生生物学ユニットを率いるヴィンセント・ラウデット教授は、「カクレクマノミの仔魚が入ったビーカーの海水の中に変態を促進し代謝を調節する小さな分子を入れると、仔魚は呼吸によってこの分子を取り込みます。この分子は、細胞内の特定のタンパク質である『受容体』と結合し、変化を起こします。これを利用して、代謝が変化すると、変態にも変化が起きるのか、それとも両者は無関係なのかということを調べたところ、両者は明らかに関係があり、変態のタイミングは、仔魚が生存するために非常に重要な鍵を担っていることが明らかになりました」と説明しています。 

カクレクマノミの仔魚に変態を促進し代謝を調節する分子を与える実験
カクレクマノミの仔魚が入ったビーカーの海水に変態を促進し代謝を調節する分子を入れて、仔魚に取り込ませる実験を行いました。提供:ナターシャ・ルー博士

海洋魚類の仔魚にとって、外洋を移動することも変態を遂げることも非常に多くのエネルギーを必要とします。そのため、仔魚は適切な環境かつ適切な成長段階で変態を遂げる必要があります。幼い仔魚がこれらの困難を乗り越えながら、うまく変態を遂げ、新たな沿岸に到達して初めて、新たな世代が繁栄することができるのです。 

甲状腺ホルモンは、どの動物にも共通して変態を司っているため、今回の研究成果は、海洋魚類以外の動物にも当てはまります。その証拠に、人間の赤ちゃんは、生後すぐに甲状腺ホルモンの検査を受けます。これは、カクレクマノミと同じように、生後間もない人間の発育においても甲状腺ホルモンが重要な役割を果たしているためです。 

作者:ナターシャ・ルー、ヴィンセント・ラウデット、マール・ナイドゥ 

広報・取材に関するお問い合わせ
報道関係者専用問い合わせフォーム

シェア: