海を脅かす陸域からの土砂流出
環境省の最近の調査によると、沖縄県石垣島と西表島の間にある国内最大のサンゴ礁である石西礁湖の70%以上が白化現象により死滅したそうです。海水温の上昇は、サンゴの白化現象の主たる原因ですが、陸地からの土砂や汚染物質の流出も白化を引き起こしています。陸域の土地利用がどのようにサンゴ礁に影響を及ぼすのか。そのような興味から、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究員らは現在、周辺サンゴ礁への潜在的被害を推定することを目標に、土砂と有害物質を含む堆積物がどの程度海域に到達するかを示すモデルの構築に取り組んでいます。
サンゴは、サンゴの組織内で生きている微細藻類の褐虫藻と共生関係にあります。サンゴにとって、褐虫藻は栄養源であり、褐虫藻のおかげでサンゴは発色します。水温変化、有害物質による汚染、または海水の汚濁による日照量減少などの環境ストレスは、褐虫藻がサンゴの組織から離れてしまう原因となります。褐虫藻がなくなると、サンゴは栄養源を失い、白化が起こり、病気にかかりやすくなります。沖縄で起きている広範囲の白化現象を鑑みれば、残存するサンゴ礁やその生態系を保護することは必須です。
OIST生物多様性・複雑性研究ユニットの科学者らは、沖縄の陸域の地形と土壌タイプを、過去30年分以上の降雨分布データおよび土地利用情報と合わせ、海域に達する土砂と有害物質の流出量を推定しました。
この情報を水面海流、水深、流速と流向と組み合わせることで、海域にたどり着いた流失物がどこに流れるかを推定することができます。
生物多様性・複雑性研究ユニットによる本動画は、沖縄県における「典型的な」降雨量があった年の土砂流出を示しています。赤い海域は土砂や有害物質の蓄積がより多く、緑と青の海域は土砂の蓄積量が少ないことを示しています。
「このモデルは、台風等の単発事象の影響、またはより長期的な事象の環境影響調査にも使用できます。」と、生物多様性・生物複雑性研究ユニットのケネス・ダドリーさんは説明します。
昨年12月にOISTの技術開発イノベーションセンターにより本学で開催された流域管理ワークショップで、ダドリーさんはこのモデルについて発表しました。ワークショップには、沖縄県環境部環境保全課と沖縄県衛生環境研究所の研究者ら、また、OISTで環境モニタリングに関わる研究員が参加し、土砂流出の問題と解決策の可能性について話し合いました。
沖縄県衛生環境研究所の主任研究員である金城孝一博士が、土砂流出問題の緊急性を強調し、「なるべく早期に対策を講じる必要があります。」とコメントしました。
本ワークショップを振り返り、生物多様性と生物複雑性研究ユニットのエヴァン・エコノモ准教授は、以下のようにコメントしています。「県環境部や沖縄県衛生環境研究所から学ばせてもらい、連携していければと願っています。土砂流出の問題について、沖縄県の専門家の方々が長期にわたって調査されており、専門性と蓄積されたデータは素晴らしいものです。土砂流出対策にあたり、私たちの研究が今後お役に立てればと考えています。」
技術開発イノベーションセンターR&D担当審議役の富永千尋さんは、「沖縄県とOISTの研究者をつなげることで、将来的によい関係を築いていければと願っています。」と語りました。
まだ初期段階にあるこのモデルは、さらなる研究を重ねて精度が向上されていく可能性があります。例えば、海域に到達した堆積土砂がその後どのように移動するのかは未だ明らかになっておらず、より複雑な海洋モデル技術が必要となってくるでしょう。さらなる研究では、モデルにおける堆積土砂の推定量と、実際の海域における堆積土砂レベルの比較を通じた検証作業も出てくるでしょう。
現在進行中の海域流出モデル研究は、県内でOISTが進めるより大規模な環境モニタリングプロジェクト「OKEON美ら森プロジェクト」の重要な柱のひとつです。ダドリーさんとOIST研究員のシャー・パヤル博士は、過去数十年間の沖縄における陸域の土地利用と地表植性などの変化を示すモデルを構築しており、他の研究員たちは、沖縄の陸域における環境をモニタリングするという共通目的のため、昆虫採集や、様々な動物の鳴き声および動画の収集作業を進めています。
ホームページの写真は沖縄県衛生環境研究所提供。
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