名前に込められた思い
先日、生物多様性・複雑性研究ユニットのエヴァン・エコノモ准教授は、学術誌「ZooKeys」にアリの新種に関する論文を発表し、そのアリを、琉球大学の辻和希教授のお名前にちなんで「Pristomyrmex tsujii」と命名しました。南太平洋のフィジー諸島固有の種であるPristomyrmex tsujiiは美しい希少なアリで、気候変動や森林伐採の影響により生息数が減少しています。
辻教授は、日本に生息するアミメアリPristomyrmex punctatusの研究で広く知られる著名な生態学者です。日本生態学会の将来計画委員会の委員長を務め、日本学術会議連携会員でもいらっしゃる辻教授は、ご専門の生態学、進化生物学、及び昆虫学の分野における国際交流の促進に力を注いでおられます。同教授は、海外から来たOISTの研究者にシンポジウムや学会への参加を呼び掛け、彼らが日本の学術界に溶け込むための橋渡しをしてくださいました。
エコノモ准教授は、「当分野への辻教授の多大な貢献とPristomyrmex punctatusに関する素晴らしい研究を称え命名しました。また、私のように海外から来た研究者が日本の科学界に温かく受け入れてもらえたのも辻教授のおかげで、感謝の気持ちを表したいと思いました。」と述べました。
辻教授は、アミメアリのコロニーで起こる「社会の癌」という現象の研究で一目置かれています。アミメアリは沖縄でも多く生息している種で、OISTキャンパス内の広い範囲も走り回っています。アミメアリは非常に珍しいことに、女王アリが存在しません。普通のアリのコロニーでは、女王だけが子孫を産みますが、アミメアリは働きアリが生殖能力を持ち、自ら子供を産みます。しかしこれによって新たな問題が発生します。働きありが2つのグループに分かれ、仕事を怠ける裏切り者が現れ、もうひとつのグループに仕事を任せきりにしてしまうのです。裏切り者は仕事を避けることでエネルギーを温存し、裏切り者の子孫を多く生みますが、これによって次第にコロニー全体の仕事量が圧迫されコロニー全体が崩壊してしまいます。このしくみが「利己的な」癌細胞が手に負えない速さで増殖し、宿主を死に追いやるのと類似していることから辻教授はアリの裏切り者を「社会の癌」と呼んでいます。
ご自身にちなんでアリが命名されたことについて、辻教授は「アミメアリの新種に私の名前をつけて頂き光栄です。県内の両大学による研究を通して、沖縄と太平洋の島々の間の絆が深まれば幸いです。」とコメントを寄せてくださいました。
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