暁の合唱に耳をすませて 〜沖縄で始まった音声モニタリング・ネットワーク〜
沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、英国の研究者らと共同で、鳥の活動を追跡する音声モニタリング装置を使って沖縄の鳥の分布を調査しました。
遠隔で操作できる同装置を利用して音風景(サウンドスケープ)を録音し、また膨大な音声データの分析能力を高めることで、鳥類種の同定の自動化ができるようになりました。新たな生態学的研究モデルとして注目を集めるとともに、変化する沖縄の環境を音声でモニタリングする新たなアプローチを提供することとなります。
本研究成果は、日本生態学会発行の英文機関誌Ecological Researchに掲載されました。
沖縄本島の緑生い茂る亜熱帯の森から拡大していく都市部まで、この一年の間で、いたるところに緑色の箱の形をした観測基地、モニタリングステーションが姿を見せました。 このモニタリングステーションは簡素な作りながらも、島の動物の生態や気象状況を遠隔で追跡し、島に生息する動物種に関する膨大な情報を収集することができる装置なのです。
研究チームは、この度初めて、鳥の活動を追跡する音声モニタリング遠隔装置を使って沖縄の鳥の分布を調査し、その結果を「Ecological Research」誌に発表しました。 この研究は、沖縄の陸域環境のより深い理解を目指しているOKEON(沖縄環境観測ネットワーク)美ら森プロジェクトの活動で、新しい形の科学者と市民との協働プロジェクトの一部となっています。
OISTと英国のリーズ大学の研究者らは、今年の夏1ヶ月間にわたり、5つの地点で、自然及び人間が織りなす様々な音の世界、「サウンドスケープ」の記録を行いました。各地点に設置されたマイクは20分間隔で音声を10分間録音します。研究者らは、各地の土地利用と植性の分類をもとに、録音された音声記録の分布を比較しました。
この調査結果では、科学者たちが長年信じてきたことが真実であったことが確認されました。つまり、あまり開発がされていない地域、特に沖縄本島北部では、鳥や動物の音が多く聞かれ、人々は暁の鳥たちのさえずりや呼び声で目を覚ましています。 一方、南部は、市街地がより多く、それに伴って動物の音が少なくなっています。
本研究の責任著者であり、OISTで生物多様性・複雑性ユニットを率いるエヴァン・エコノモ准教授は、「都会の音が、森の音とは異なることは誰もが知っていますが、近年研究者らは、サウンドスケープを定量的な方法で研究することに、ますます関心を持つようになっています。生態系において聞こえてくる音は、そこで起きているプロセスについて多くの情報をもたらしてくれるからです。」とし、さらに、「縄張りや餌、交尾相手探しを音に頼っている鳥にとって、人間が作り出す音は攪乱要因となり得るとともに、騒音公害は甚大な影響をもたらす可能性があります。」 と説明しました。
このプログラム自体が、沖縄本島の科学にとって重要な進歩であると論文筆頭著者であるニコラス・フリードマン博士は説明しています。本ネットワークの自動化により、研究者らは各地点をより効率的にモニタリングし、複数の音を一度に記録できるようになっています。 OISTにあるスーパーコンピュータと音声認識ソフトウェアを使用することで、研究チームは分析に要する時間を大幅に短縮できるようになりました。
「以前の生態学的研究モデルでは、この種のデータを取得するためには、技術者らは常に現場に行かねばならず、さらに訓練と時間が必要でした。しかしこの技術により鳥類種の同定の自動化が可能になるため、より少ない費用でより多くの地点を調査することができます。」
チームでは、本研究を、将来の研究の基盤として使用することを目指しており、音声レコーダーを24地点に拡張し、昆虫を含む様々な動物をモニタリングする計画です。研究チームは既に25テラバイト以上の音声データを収集しており、これはスーパーコンピュータがなかったとしたら、聴くだけでも8年もかかるデータ量に相当する驚くべきものです。
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