ADHDへのより効果的な対処法を探求
OISTシーサイドハウスの2階へと続く階段を上り、発達神経生物学ユニットのオフィスを訪れると、まず、研究機関のイメージとは程遠い玩具や子どもサイズの家具が揃う色鮮やかな待合室が温かく迎え入れてくれます。その印象通り、同ユニットは、OISTの研究チームの中でも特殊な研究を行っているグループです。理論やラボワークを軸とせず、注意欠如多動性障害(ADHD)と呼ばれる発達障害の原因及び影響に関する研究を主として行い、ADHDを持つ児童や家族に対し、目に見える具体的な支援を提供できるよう取り組んでいます。
発達神経生物学ユニットを率いるゲイル・トリップ教授によると、同ユニットでは現在3つの関連する研究プロジェクトが行われています。1つ目のプロジェクトでは、ADHD児童とそうでない児童に、ポイントが貯まるとご褒美と交換できるコンピューターを使ったタスクに取り組んでもらい、報酬が児童の学習と行動に与える影響を調査しています。研究チームは、ADHDを持つ児童は持たない児童と比較して、ある行動への動機づけとなる報酬を予期させる微妙な合図に対して感受性が低いのではないかと仮定しています。同ユニットは今後、ブラジルの共同研究者らと連携してADHDの治療薬が報酬への感受性に与える影響について検証します。
また、同ユニットの島袋静香研究員が率いる別のプロジェクトでは、ADHDの児童を持つ日本人の保護者を対象とした支援プログラムを開発しています。島袋研究員は、現在日本で適用されているペアレンティング(子育て対処法)は、海外から持ち込まれたプログラムで、一般的な子育て法であるため、ADHD児童及びその保護者向けに作られたものではない、と指摘した上で、「ADHD児童により効果的で、日本人の保護者のニーズに合うプログラムにする必要があります。」と述べています。沖縄県出身の島袋研究員は、米国で結婚・家族療法について学びました。既に県内で数名のADHD児童の保護者から構成されるグループを対象とした新しいペアレンティング(子育て対処法)の試験プログラムを実施しており、現在は参加者から出された意見をもとに内容の見直しを行っています。さらに、島袋研究員は県内の他の関係機関と緊密に連携し、ADHDに向き合う家族向けの支援サービスのネットワークを強化し、その拡大に繋げていこうと考えています。「ADHD児童をもつ親たちのニーズは大きいものの、彼らが利用できるサービスはまだとても限られています。」と、同研究員は語っています。
同ユニットでは、保護者の子育てスキルの向上に加え、児童自身がADHDの症状に対応できるよう支援することにも関心を持っています。このため、大学院生のジャクリン・メレディス準研究員は、ADHDの児童が他の人とやりとりする際、どのように言語を使用し、処理しているかを研究しています。メレディス準研究員は「子どもが治療薬を服用している間はADHDの症状が軽減するものの、周りの友達とうまく付き合えないといった問題点が残るため保護者が心配されることがあります。」と話し、「既存のソーシャルスキル(社会対応能力)プログラムは、ADHD児童に効果がみられないことがよくあります。そのため、言語の問題が根底にあるのではないか調べています。」と説明します。この研究を進めるため、メレディス準研究員は、保護者にお子さん(ADHD児童及びそうでない児童の両方)の言語能力及び社会対応能力を評価してもらっています。また、同準研究員は、児童の指示に従う能力を見極めたり、周りの人との関わりにおいて、どのように対処するのが一番良いと思うか等を質問したり、児童に社会で起こり得る様々な場面の動画を見せ、どのような反応を示すかについて検証を行っています。
同ユニットの研究において、ADHDを持った児童とその家族を支援するには、知識だけでは十分ではなく、地域社会の理解と支援が重要であるという認識が一貫しています。トリップ教授は、「ADHDの概念が人々に受け入れられるよう願っています。」と語りました。
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