ヤイトハタの初期仔魚期における驚くべきホルモン関連遺伝子の活性を発見
沖縄科学技術大学院大学(OIST)の海洋気候変動ユニットおよび海洋生態進化発生生物学ユニットの研究チームは、ヤイトハタ(Epinephelus malabaricus)(沖縄では「アーラミーバイ/ハーサミーバイ」と呼ばれる)の仔魚の発達過程における遺伝子活性化のパターンを明らかにし、仔魚期初期において甲状腺ホルモンおよびコルチコイド関連遺伝子の活性化が早期にピークに達するという珍しい現象を明らかにしました。本研究は、学術誌『eLife』に掲載され、これら二つの遺伝子が仔魚の発達過程において、仔魚期初期と変態期で2度活性化のされることを示した初めての研究です。このような早期の活性化は、これまでどの魚種でも見られたことがなく、ハタの事例は唯一の報告です。
ハタ類は中間捕食者であり、海洋生態系のバランスと健全性の維持に重要な役割を果たしています。ヤイトハタ(Epinephelus malabaricus)は、最大で体長2メートルまで成長します。しかし、その人気と食用市場における高い経済価値のために乱獲が進み、多くの種が絶滅の危機に瀕しています。この脅威に対処し、かつ食料需要を満たすため、沖縄および世界各地ではハタを養殖しています。
沖縄のハタ(ミーバイ)養殖
「私にとって、これらの魚が沖縄で養殖され、売られているという点が、地域の文化や経済活動と環境への配慮を両立させているという点で特に興味深いものでした」と論文の筆頭著者で、海洋気候変動ユニットの分子生物学者ロジャー・ヒューリマン博士は語ります。
ヤイトハタの繁殖と稚魚の飼育に関する研究は、1992年に沖縄県水産海洋研究センター石垣支所で開始されました。沖縄での繁殖に初めて成功したのは1996年のことです。1997年には、同センターは世界で初めて大規模な繁殖に成功し、20万匹以上の稚魚を育てました。現在、沖縄では10か所のヤイトハタ養殖場が運営されています。
RNA解析で、特異的なホルモン活性を明らかに
ゲノムとは、生物の遺伝情報の全体を意味します。科学者は、特定の条件下や特定の細胞においてゲノムが生成するRNAを解析することで、ゲノムがどのように機能するのかを研究することができます。これは、トランスクリプトーム解析と呼ばれています。これにより、異なる発達段階において、特定の時期に活性化される遺伝子を特定することができます。研究チームは、仔魚期(変態という非常に重要なステップを含む)のヤイトハタで、甲状腺ホルモンとコルチコイドホルモン、その他の生物学的プロセスに関連する遺伝子がどのように発現するかを調べました。
ふ化後、仔魚は外洋で約60日間を過ごし、その後沿岸環境に戻ります。この移動の間に、ホルモンの影響で、劇的な変態を経験し、棘状(きょくじょう)突起が後退し、成魚のような色素沈着が現れます。
「本研究におけるゲノム解析では、変態のタイミングで甲状腺とコルチコイドの遺伝子が明らかに活発化していることが示されています。ハタ類では、変態は成魚のような色素沈着の出現と、仔魚が背ビレと胸ビレに持っていた棘状突起の消失と一致しています」とヒューリマン博士は説明します。「興味深いのは、仔魚の初期発達段階で、これらの遺伝子に急激な増加が見られたことです。これは、他の魚では見られない現象です。」
フランスの島嶼研究環境観測センター(CRIOBE)研究員で、OIST計算行動神経科学ユニットの元研究員ナターシャ・ルー博士は、さらに詳しく説明します。「私たちは仔魚の甲状腺ホルモンとコルチコイドのレベルも測定し、両方のホルモンが仔魚期の初期に増加していることを確認しました。これはゲノム解析の結果を裏付けるものです。なぜこのような活性化が起こるのかはまだ分かっていませんが、仔魚の棘状突起の成長と関連している可能性があり、浮力や捕食者からの防御に役立つのではないかという仮説を立てています。」
研究チームは、沖縄県北部の本部町の方々のご協力がなければ、今回の研究は実現しなかったと強調しています。地元の方々のご協力によって、今回、研究チームは、沖縄県栽培漁業センター内に小さな実験室を設置させていただき、サンプリングと実験を行うことができました。
ヒューリマン博士は、自身の研究を通じて地元の養殖業者を支援し、沖縄における持続可能な養殖業の実現を目指しています。「当初の目標は、今後の研究の基礎となる参照ゲノム配列を作成することでした。しかし、この3年間、養殖業者の方々を訪問し、養殖の課題について理解しようと努めてきました。そして、魚の疾病管理が重要な問題であり、私の研究がその問題や養殖業者の方々が直面する問題の解決に役に立てたらと思っています」とヒューリマン博士は述べています。
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