土地利用の変化が、沖縄のアリの季節的行動パターンに影響
健全な生態系を維持する上で、昆虫は重要な役割を担っていますが、人間の活動が昆虫の個体数にどのような影響を与えるかについてはよく分かっていません。昆虫の個体数減少が、生態系や農業に深刻な影響を及ぼすことを考えると、これは深刻です。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らは、アイルランドの共同研究者らと共に、人間の開発による土地被覆の変化が沖縄のアリ群集の季節的行動パターンに与える影響について調査しました。
沖縄本島全域のさまざまな環境で120万匹ものアリを採集・同定した結果、人間の開発が進んだ地域のアリ群集は、森林の多い地域のアリ群集と比較して、本来の季節性が欠如し、予測が難しくなることが明らかになりました。この研究成果は、英国の学術専門誌「英国王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B)」に掲載されました。
自然環境、特に季節がはっきりしている環境では、一般的に昆虫は春と夏に活動的になり、冬には活動が鈍くなり、このパターンを毎年繰り返します。この研究では、私たちに恩恵をもたらす「生態系サービス」と関連する昆虫の行動パターンが、人間の開発による土地被覆の変化によって、いかに乱され得るかが明らかになりました。
OISTの環境科学・インフォマティクスセクションが管理する「OKEON 美ら森プロジェクト」のモニタリングサイト24か所に昆虫トラップを仕掛け、2週間ごとに、働きアリを採集しました。研究チームは、アリの種類を同定し、それぞれの個体数を記録しました。これらのデータを基に、アリ群集が時間とともにどの程度変化するかを計算し、衛星の土地被覆との関係をモデル化しました。その結果、森林地帯よりも開発された地域の方がアリ群集の経年変化が少ないことが判明し、さらに掘り下げると、特に季節性が減少していることが明らかになりました。
OIST生物多様性・複雑性研究ユニットを率いるエヴァン・エコノモ教授は、「森林地帯では、自然な季節サイクルが保たれていますが、人間による開発が進んだ地域では、そのパターンが乱れ、弱まります」と説明します。「その結果、どの種が活動的かを予測することが難しくなり、年間を通じて観察される自然のサイクルが減少しているのです」
昆虫群集の季節パターンは、有機物分解、栄養循環、水質浄化、種子散布など、昆虫が生態系で果たす重要な役割に関連しています。アリは個体数が多く、複数の機能を果たしているため、重要な位置に存在しています。
OISTの元研究員で、東北大学のジェイミイ・キャス准教授は、昆虫の行動が時間とともにどう変化するかを理解することが重要だと話します。「昆虫の行動を年に数回記録するだけでは、季節による重要な変化を見逃す危険性があります。ほとんどの研究ではこの点が考慮されていません。私たちの研究では、人間の活動によって昆虫群集の正常な季節行動が乱されている可能性が示されました。これは世界的に深刻な環境の変化が起こっていること示す重要な結果ですが、あまり調査されていません」
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