3D「オバマ」アリさん、こんにちは!

環境保全分野で著名な人物(バラク・オバマ、ケン・サロ=ウィワ、エドワード・O・ウィルソン)を讃えて命名された3種の新種のアリが、3Dモデルとして、彼らの名とともに、不朽のものとなりました。

Thorax+metasoma segmented

  沖縄科学技術大学院大学(OIST)の生物学者らは、この度、アフリカで発見された3種の珍しいアリを新種として記載し、アフリカにおける生物多様性保全で著名な3人の人物(前米国大統領、作家兼活動家、世界的に有名な科学者)にちなんで命名しました。 OIST研究者らは、種の記載をする際に、最新のスキャニング技術を用い、スキャン画像を合成することによってアリの標本の3Dモデルを作り上げ、献名された3人の人物と同様に、不朽のものとしたのです。

  一つ目のアリ、Zasphinctus obamaiは 、米国の前大統領バラク・オバマ氏の祖先一家が住んでいた村の近くにあるケニアのカカメガの国立森林公園で発見されました。 OIST研究者らは、オバマ氏による地球規模の生物多様性保全への多大な貢献に敬意を表し命名を決めました。 二つ目の種、Zasphinctus sarowiwaiは、無責任な石油開発に反対運動をし、1995年に処刑されたナイジェリアの作家・環境活動家であるケン・サロ=ウィワ氏にちなんで命名されました。三つ目の種、Zasphinctus wilsoniは、社会生物学、アリの生物学、進化や生物多様性保全への多大な貢献で知られる生物学者エドワード・O・ウィルソンにちなんだものです。ウィルソン氏は自身の財団を通じ、モザンビークのゴロンゴサ国立公園の再生に貢献してきました。 これは、アフリカで最も成功した野生生物回復物語の一つです。

  3D画像の作製について、OIST生物多様性・生物複雑性ユニットのメンバーで、論文の筆頭著者のフランシスコ・ヒタ・ガルシア博士は、以下のように説明しています。「私たちはX線マイクロトモグラフィー、いわゆるマイクロCTを用いました。これは私たちが病院に行って受けるCTスキャンと同様のものですが、もっと解像度が高く、微小な昆虫をスキャンすることができます。」

  OIST研究チームは、スキャン画像を取得し、それを3Dに再構築して、小さな足にある繊毛までオリジナルそっくりに再現しました。 この3D再構築は、バーチャル分類学の将来の可能性を示しています。実物の標本を調査するのにかかる時間や経費が削減され、観察の際に標本を破損してしまう可能性もなくなります。さらには、アリの外骨格の厚さといった、これまでは観察が困難だった形質の調査も、この3Dモデルを用いれば可能になります。

  このようなモデルを作製することは、多くの利点があります。 例えばマイクロCT技術を使用して作製されているため、元の実物標本を外側と内側の両方から再現できます。 例えば、研究者がアリの口の内部がどのようになっているのかを研究したいならば、ただ単に外側部分を取り除けばよいのです。実物標本では、標本を傷つけることなく行うことは不可能ですが、今回OIST研究者らは3Dモデルを用い、まさしくこの作業を行ったのです。

OIST研究者が記載した3つの新種の一つである、Zasphinctus sarowiwaiの口器を回転式3D再構築画像で示している。口器の各パーツが配置をそのままに、3Dで視覚化されたのは初めてである。 黄色の部分はアリの上唇、緑色の部分は小顎、オレンジ色の部分は下唇を示す。 触角のように見える部分は口肢と呼ばれる。 これらの構造が組み合わさり、食物を口中に取り込み、咀嚼する機能を持つ。
OIST生物多様性・複雑性研究ユニット

  OIST研究者らは、実物をバーチャル再構成した3Dモデルを用い、アリの口器を調査することに加え、アリ体内の筋肉を視覚化し、また、クチクラと呼ばれる皮膚の厚さの測定も行いました。

この3D再構築画像において、赤色の部分はZasphinctus sarowiwaiアリの内部の筋肉、緑色の部分は針を示している。この種のアリは腹部に多くの筋肉があり、針が非常に強力かつ補食のために機能的であることを示唆している。
OIST生物多様性・複雑性研究ユニット(https://groups.oist.jp/ja/bbu)

  「今回、私たちは、誰も見たことがないものを観察することができました」とガルシア博士は説明します。これらの新たな観察を通じ、研究チームは、アリの生態についての詳細も確認することができました。アフリカ大陸の外に生息するZasphinctusの別の種については、他のアリを捕食することが知られています。OIST研究者の研究で得られた、口器、筋肉、皮膚の厚さのデータはどれもが、アフリカのZasphinctusも同様に、上位の捕食者であることを示しています。 「通常、新種を記載する際、その生物学的側面はほとんど知らずに行います。」とガルシア博士は説明します。ところが、3Dの再構築モデルにより、研究者らはすぐに生物学的な詳細を見出すことができるのです。

  3Dモデルのもう1つの利点は、どこからでも簡単にアクセスできることです。 特に珍しい標本については、例えばナイロビにある博物館を訪れるための高額な航空券や、その他の調整に多くの時間と費用が掛かるでしょう。 ところが3Dモデルではこのようなことはありません。 「誰かがオバマアリを見たいと思ったら、モデルをダウンロードして見ることができ、3Dでプリントアウトすることもできるのです。」とガルシア博士は説明します。 OIST研究者が作成した全3D素材は自由に、Dryad Digital Repositoryのサイトにアクセスし、閲覧することができます: http://datadryad.org/resource/doi:10.5061/dryad.4s3v1.

  スキャニング機能の進歩にもかかわらず、バーチャルな分類学の世界は、いまだ実現する準備ができていません。 理由の一つに挙げられるのが、マイクロCTスキャナーが使える研究室や研究所が十分存在しないことです。ガルシア博士は語ります。 「地球上には何百万もの種がありますが、3Dモデルについては、そのうちのごく少数しかありません。」技術面では準備が整っているので、科学界においては技術を享受するだけでなく、応用に向けた手段と推進力を必要としています。

  そのような未来が到来するまで、OIST研究者は利他的な目的をもって、3つの新種アリのユニークな名前の使用に注力していきます。ガルシア博士は以下のように説明しています。 「これらのアリは、アフリカでも特に保全が必要な地域に生息しているので、アリ自体だけではなく、その生息環境にも人々が注目してくれるように名前を付けたいと考えました。」アフリカ赤道直下の熱帯雨林やモザンビークのサバンナは、生息環境や生息動物が損なわれてしまう前に保護しなければなりません。

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