反応性研究と金属の分子修飾

OIST博士課程学生による最新の化学論文を、写真ギャラリーでご紹介します。

  研究者にとって、筆頭著者として論文を発表することは快挙と言えます。 この度、Organometallics誌において、沖縄科学技術大学(OIST)博士課程学生のセバスチャン・ラポインテさんが、ある論文を筆頭著者として発表しました。ジュリア・クスヌディノワ准教授が率いる錯体化学・触媒ユニットの学生であるラポインテさんにとって、博士課程履修中初の論文となります。

  研究者チームは、金属の中心と結合しているキレート剤であるピンサー配位子を分子修飾しました。 ラポインテさんは、この配位子が反応性の高い錯体を安定化することが可能かどうかを確かめた結果、可能であることを突き止めました。

  ニッケル錯体は、化学産業においてポリマーやファインケミカルの製造に使用される重要な触媒ですが、その触媒反応の中間体については、あまりよく知られていません。 これは、中間体が不対電子を持っているためです。不対電子はニッケル錯体を高度に活性化させますが、化学者が利用する最も重要な分光学的な測定法であるNMR(核磁気共鳴分析)が適用できません。

「錯体の安定性を左右する主要因は、分子の腕部分に当たる場所にメチル基が存在することです。 メチル基には3つの役割があり、配位子に対する不要な反応をブロックし、配位子のサイズを大きくし、より高い電子密度を金属に与えます。」とラポインテさんは説明します。

  実験結果は目で見て確認できます。どんな 研究か、以下の一連の写真をご覧ください。

錯体化学・触媒ユニットの博士課程学生であるセバスチャン・ラポインテさんが実験を準備中。 化学物質を空気から隔離するため、実験はグローブボックス内で行われる。

左側の2つの粉末は、反応前のニッケル(II)分子で、右側の2つは反応後の最終的に生成されたニッケル(I)。 ニッケル(II)分子の色は、単純に配位子のサイズに基づいて変化する。赤色の錯体は、黄色の錯体よりも配位子のサイズが大きい。

セバスチャン・ラポインテさんが、ニッケル(II)の反応を確かめるために用意した溶液。化学反応を起こすための還元剤添加前の写真。 「安定化システムがどのように機能するかを確認するため、錯体に電子を与える分子である還元剤を使用しました。一般的には、反応性のある金属錯体を単離しようとすると、配位子は分解してしまいます。」とセバスチャン・ラポインテさんは説明を続けます。

還元剤を加えてから数秒後、黄色の溶液が褐色に変化。 この色の変化は分子間で反応が起きていることを意味する。 「色の変化を観察することは、還元反応によって分子構造が変化していることを確認するための、非常に面白い方法です。金属錯体は多種多様な色を示します。これは、私が大の化学好きである理由の1つです。」とセバスチャン・ラポインテさんはコメントしています。

同じ還元剤使用前の、わずかに大きいサイズのニッケル(II)分子を含む別の溶液

還元剤を投入してからしばらくすると、溶液は濃い赤色に変わるが、ろ過して精製する必要がある。 これをもって純粋な最終生成物が得られる。 「今回の研究では、我々の開発した配位子を用いると、還元反応による複雑で望ましくない副反応が抑えられると同時に、金属が容易に還元できることが明らかとなりました。 今度は、非常に反応性の高い錯体が、酸素やその他の小分子とどのように反応するかを研究します。」

博士課程学生のセバスチャン・ラポインテさんが見せる実験後の溶液。 溶液は約1週間冷蔵庫に入れ、 時間の経過とともに結晶が形成される。上部に結晶化した金属錯体が見える。 瓶の底にも複数の結晶が見られる。

ラポインテさんの手の平に置かれた結晶と、背景のパソコンの画面にかすかに映っている分子構造。結晶とは、同一方向に向いている分子の繰り返し構造であり、さらにX線回折装置を使用することにより、その分子の正確な分子構造が得られる。 このテクニックは化学において最も有用な測定の一つで、毎日X線回析装置を使えることはありがたい。

コバルトセン(中央の分子)を還元剤として用い、安定なニッケル(II)錯体(左の分子)を還元し、反応性のあるニッケル(I)錯体(右の分子)を得た。 画像は、セバスチャン・ラポインテさんにより解析された2Dおよび3D分子画像。 化学反応後、臭素原子は折れ曲がった配置をとる。 赤く記されている原子は、分子の形状に影響を与えるメチル基。  

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