重大な一時停止:予期せぬ刺激への反応と脳線条体の神経細胞
環境からの予期せぬ刺激に対し、臨機応変に行動を変化させることは生存することにおいて不可欠です。状況の変化に応じて今とっている行動を瞬時に停止する反射的な対応力は、例えば迫りくる暴走車に轢かれてしまうか、それを避けられるかを分けるほどの重大な役割があります。沖縄科学技術大学院大学(OIST)の新しい研究ではこのような対応力を調節し得る脳のメカニズムについて詳しく調べました。
OIST神経生物学研究ユニットのステファノ・ズッカ博士が率いたこの研究は、運動および動機づけに関与する脳領域である線条体内の神経細胞を調べるもので、オープンアクセス誌 eLife に掲載されました。線条体ではコリン作動性介在ニューロン(CINs)と呼ばれる神経細胞がほぼ絶え間ない活動状態にあり、それが発火するたびにアセチルコリンと呼ばれる化学物質を放出します。 しかし、脳がびっくりするような音や外界からの予期せぬ刺激を受けるとCINsの活動は一時停止するのです。
最終著者のジェフ・ウィッケンス教授は次のように言います「これら一時停止の目的は謎です。 私たちはこの役割がいったい何なのかが知りたかったのです。」
これを解明するためにウィッケンス教授の研究チームは光遺伝学(オプトジェネティクス)として知られている方法でCINの活動を操作しました。まず、ウイルスを用いて線条体のCINのDNAを、光に反応するイオンチャネルを符号化した遺伝子で置き換え、光ファイバーケーブルをマウスの線条体に埋め込みました。細胞内の光ファイバーケーブルに沿ってレーザー光を照射することにより、CINを活動状態または休止状態に切り替えることが可能になり、マウスがケージの周りを移動する際にそのCIN発火の一時停止を任意で発生させることに成功しました。
次に単一細胞に挿入した電極を使い一時停止の間に生成された電気信号の記録を行うのですが、このステップが最も困難でした。これまでの研究では神経細胞の外側から生成された電気信号を記録したもので、限られた情報しか得られませんでした。明確な電位を記録するには、細胞内から直接測定する必要がありました。 ただこれは言うほど簡単でなく、「一つの細胞の内部に穴を開け、損傷せずに探り針となるプローブを取り付ける必要があります。ズッカ博士が試行錯誤の末に完成させたこの業績は非常に素晴らしいです」と、ウィッケンス教授は語りました。
研究者たちは、一時停止を引き起こした際にCINに隣接する神経細胞への波及効果があることを発見しました。この隣接する神経細胞は有棘投射神経細胞(SPN)と呼ばれるもので、線条体から他の脳領域に信号を送ります。一時停止中はCINからの刺激が低いため、SPNが自らを発火させる可能性も低いということが本研究により示されました。CINの一時停止が線条体からの出力信号を効果的に遮断することで、発端となった予期せぬ刺激にそれなりの意味を与えているのです。
ウィッケンス教授は、動物が外界からの刺激に対しどのように反応するかを調節するメカニズムが、このCIN活動の一時停止と再開の様だと述べています。 例として「動物が食事中に聞きなれない音を聞き、途端にその行動を止めるという反応を調整しているのがこのメカニズムとも考えられます」と、述べました。
また同教授は、「CINは線条体内の細胞のほんの1%しか占めていませんが大きな影響を与えています。 CINは行動を変える上で重要で、機能不全になった場合にはパーキンソン病などの運動障害などにもその影響が見られます」と語りました。
研究者チームは今後この現象をより詳細に調べる予定で、ウィッケンス教授は次のように抱負を語っています。「今後はこの一時停止が線条体のどこでも同時に起こっているものなのか、あるいは特定の場所に限定されているのかを調べたいと思っています。その結果、如何にこの現象が瞬時から瞬時への行動に影響を及ぼしているかを明らかにする手助けになるでしょう」とも述べています。
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