OIST研究者ら、コナカイガラムシの共生システムのメカニズム解明に貢献
地球上の生物はお互いに影響し合いながら生きていますが、生物間でお互いに協力し合って生きることを「共生」と言います。農業害虫としてよく知られているコナカイガラムシは、微生物との共生のために特殊化した共生器官の細胞内に、極度にゲノムの縮小した2種類の細胞内共生細菌を持っています。この2種類の細菌は、昆虫の菌細胞の中に細菌がいて、その細菌の中にさらに細菌がいるという「入れ子状態」にあります。このような入れ子状の共生系は、昆虫類が持つ多様な微生物共生系の中でも、非常に特異で、この共生系を研究することは、細胞内共生系の進化の解明につながります。
この度、OISTマリンゲノミックスユニットの佐藤矩行教授らは、(独)産業技術総合研究所や米国モンタナ大学の研究チームと共同で、コナカイガラムシがその共生システムにおいて、細胞内に2種類の共生細菌を入れ子状に保有するだけでなく、過去に多種多様な細菌からさまざまな代謝系遺伝子を水平転移によって獲得し、それら共生細菌遺伝子と水平転移遺伝子の組み合わせにより機能的な代謝経路を構築することで、1つの生物として存在していることを突き止めました。水平転移とは、母細胞から娘細胞への遺伝ではなく、個体間や他生物間においておこる遺伝子の取り込みのことで、生物の進化に影響を与えていると考えられています。本研究は6月21日付(日本時間)の米国学術誌 Cell に掲載されました。
研究チームはまず次世代型シーケンサーを駆使してコナカイガラムシおよび共生細菌のゲノムを解読しました。またさらに発現している遺伝子を詳細に解析しました。
その結果、コナカイガラムシの共生システムにおいて、昆虫ゲノムに水平転移した20種以上の水平転移遺伝子が共生器官で発現し、それらがモザイク状かつ相互補完的にアミノ酸合成、ビタミン合成、細胞壁合成などの共生関係に必須な代謝経路を構築していることがわかりました。このことは、従来の常識を超えた複雑な微生物との共生システムがコナカイガラムシに存在することを突き止めたことになります。佐藤教授は、「今回の発見は、生物における個体、細胞、ゲノムとは何か、それらはどのように構築され、進化してきたのかという根源的な問いに一石を投じる新知見であると言えます。」と、研究の意義を強調しました。
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