健康長寿の秘密を科学的に解明

OISTと共同研究者は、ヒトの血中代謝物の量が、加齢に伴い変化することを明らかにしました。

 代謝物質は、生体内の代謝によって産生され、個人の健康や病気、食生活などに関する多くの情報を提供してくれる体内物質です。そしてその代謝物が、さらに多くの情報を握る物質であることが、沖縄科学技術大学院大学(OIST)と京都大学との共同研究の結果により明らかになりました。OISTの柳田充弘教授を中心とする研究チームは、今回の研究で加齢に特異的に関与する代謝物を特定し、人体の老化の解明について重要な手掛かりを見いだしました。この研究成果は、米国科学アカデミー紀要「PNAS」で発表されました。

 代謝物の特定と分析をおこなうため、研究チームは、15名の若年成人(25~33歳)と15名の高齢者(74~88歳)を合わせた計30名の健常者から赤血球を含む血液サンプルを採取しました。これまでの研究では、赤血球はあまり注目されていませんでしたが、血液全体のおよそ半分を占める主要な構成成分であることから、研究チームは、赤血球を重要な検査項目と見なし、詳細な分析をおこないました。

 チームはまず、採取した血液サンプルを液体クロマトグラフィー質量分析法(液体状の試料を分離し、物質を検出する技術)を用いて解析し、血中代謝物の特定をおこないました。次に、特定された代謝物の変動係数(標準偏差を平均値で割ったもの)を算出し、高齢者の体内で量が増加している化合物と、減少している化合物を調べました。

 「その結果、加齢に関連する14種の化合物を特定しました」と、柳田教授は説明します。「そのうちの半数の化合物が、高齢者の体内で減少しており、それらは主に抗酸化物質と、筋力に関わる化合物であることが分かりました。高齢者に、抗酸化作用の低下および筋肉の衰えが見られるのはこのためです」。

 逆に、体内量の増加が見られた残り半分の化合物類は腎臓および肝臓機能の低下に関与している代謝物であることが判明しました。

 「これは理にかなっています」と柳田教授は述べ、「加齢とともに筋力や腎臓などの身体機能が衰退することはよく知られていますが、これを科学的に証明した人はいません」と指摘します。

 さらに、同じ代謝経路で見つかったこれらの加齢に関わる代謝物の一部は、その量の変動が互いに関連していることから、加齢による影響は、両方の代謝物に同時に作用していることが示唆されています。

 「機能的なつながりを持つ化合物の間では、体内量の増減が類似する傾向にあります。言い換えれば、これらの代謝物質が相関関係にあるということです」と、柳田教授は説明します。

 本研究により加齢に関わる代謝物が特定されたことで、抗酸化物質量の減少と筋力の衰えを防ぐには、特に65歳以上の高齢者は抗酸化物質を多く含む食物を摂取し、適度な運動を続けることが重要であることが示唆されました。特定の代謝物質の量が増えれば、体調が改善されることも期待できるでしょう。健康長寿の鍵を握る多くの化合物の解明に向けて、研究チームは引き続き、必要な情報をできるだけ多く明らかにしていこうとしています。

 長寿に関する研究の意義について、柳田教授は、こう語ります。「長寿は私たちにとって大いなる謎です。高齢者が人生の最期を幸せに過ごすための秘訣はなにか。その謎が解ければ、人類の健康と福祉に貢献することができるはずです」。

 

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