電子デバイス開発に向けて新たなメカニズムを実証

OISTの研究チームが、電子デバイスの開発に役立つ可能性のある新たなメカニズムを実証しました。

  トランジスタや電子管などの電子デバイスの普及は、21世紀における人々の生活を変革しました。これらのデバイスの根本にあるのは、物質中を電子が移動することです。より高速かつ高性能なデバイスの開発を目指して、研究者らは電子の操作・移動を可能にする新たな方法を現在も探究し続けています。

   そうした中、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のケシャヴ・ダニ准教授が率いるフェムト秒分光法ユニットの研究員たちは、ナノメートル(10-9メートル)の空間規模とフェトム秒(10-15秒)の時間間隔で電子を制御できる可能性のある、光を用いた新たなメカニズムを実証しました。本研究成果は Science Advances に掲載されました。

  半導体に電圧を印加すると、物質中の電子の流れを決める電界が生成されます。最近OISTで博士号を取得したイレイン・ウォン博士と同研究室のメンバーは、表面光起電力効果と呼ばれる物理現象を利用して電界を物質表面に誘起させ、電子の流れを逆の2方向に導くことに成功しました。表面光起電力効果とは、光度(光の強さ)を変化させることで物質の表面電位を変化させることのできる効果をいいます。ウォン博士は、「レーザー光線の強度の不均一さを利用して局所表面電位を操作し、空間的に変化する電界を光励起スポット内で生成させます。これにより、光スポット内の電子の流れを制御することが可能になります」と話しています。

 

フェムト秒分光法と電子顕微鏡法を組み合わせて、短い時間間隔と小さな空間規模の両方で電子運動を観察した
OISTフェムト秒分光法ユニット

  ウォン博士と研究チームは、フェムト秒分光法と電子顕微鏡法の技術を組み合わせて、フェムト秒の時間間隔での電子の流れを捉えた動画を作成しました。フェムト秒分光法では通常、サンプル内の電子を励起させるのに、「ポンプパルス」と呼ばれる超高速レーザー光線を最初に使用します。その後、励起した電子の状態を追跡するために、「プローブパルス」として知られる超高速レーザー光線がサンプル上に照射されます。この手法は、ポンプ・プローブ分光法としても知られており、非常に短い時間間隔で励起電子の運動を観測することが可能になります。さらに、電子顕微鏡を組み合わせることで、レーザー光線スポットの極小領域内でも励起電子の運動を直接撮影することのできる空間分解能が得られます。ウォン博士は、「高い空間分解能と時間分解能を有するこれら2つの技術を組み合わせることで、逆の2方向に導かれる電子の流れを動画に記録することが可能になりました。」と話しています。

 

フェムト秒分光法と電子顕微鏡法の技術を組み合わせ、フェムト秒の時間間隔での電子の流れを捉えた動画を作成。最初に電子のサンプルを励起させるのに、超高速レーザーを使用。次に、励起した電子の状態を追跡するため、別の超高速レーザーを電子のサンプルに照射。これら二つの技術を組み合わせることで、逆の2方向に導かれる電子の流れを動画に記録することが可能になった。

  本研究の結果からは、焦点内のレーザー光線の空間強度の変化を利用し、電子運動を光の解像限界を超えて制御できる可能性も示されています。つまり、本メカニズムをナノスケールの電子回路の操作に利用できる可能性があります。ダニ准教授とチームは現在、この新たに発見されたメカニズムに基づき、機能的なナノスケールの超高速デバイスの実現に向けて研究を続けています。

 

左から右に: マイケル・マン博士, ジュリアン・マデオ博士, ビベック・パリックさん, イレイン・ウォン博士, ケシャヴ・ダニ准教授, アンドリュー・ウィンチェスターさん

 

研究ユニット

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