造礁性イシサンゴの風変わりな生殖法を沖縄で初めて確認
美しいサンゴ礁に囲まれている沖縄の島々ですが、近年では気候や人的な影響による環境の変化により、これらのサンゴ礁が広範囲で損傷し、破壊されています。サンゴ礁は周囲環境の変化に敏感であるため、このような現象は気候変動の優れた指標となると科学者たちは考えています。一方、サンゴ礁の基本的な生理機能や動態、役割などを理解するには未だに多くの謎が隠されているのも事実です。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)で海洋生態物理学ユニットを率いる御手洗哲司准教授と中島祐一博士、同ユニットおよびOISTマリン・サイエンス・ステーションの科学者たちによる最近の研究によると、沖縄周辺のサンゴ礁で見られるホソエダハナヤサイサンゴは、通常みられる方法とは別のやり方で無性生殖を行えるということが判明しました。この地域でこのような無性生殖が確認されたのは今回が初めてです。この発見により、今後サンゴ礁を保全していくために役立つ新たな戦略の可能性が広がると科学者たちは期待しています。本研究はオープンアクセス誌 PeerJ に掲載されました。
OIST海洋生態物理学ユニットでは、海に隣接する研究施設にいくつかの種類のサンゴを含む大型の屋外水槽を管理しています。今年の初め、中島博士らが様々なサンゴのゲノムや生理学的な過程を調べるプロジェクトの中で定期観察を行っていた際、水面近くの水槽の壁に生育されているハナヤサイサンゴ属のサンゴの小さな群体を発見しました。これまでいずれの成長したサンゴ群体も配偶子を周囲に放出する産卵の兆候を示さなかったので、この新たな群体の登場は研究者たちを驚かせました。
「サンゴの繁殖プロセスは依然として曖昧なものです」と中島博士は話します。サンゴは主に有性生殖によって繁殖するのですが、種類によっては無性生殖の方法も取ります。有性生殖はまずサンゴ群体が配偶子を周囲に放出し、受精後にそれらが海底に沈み、そこから新しい群体が作られます。そして新たに作られた群体の遺伝子型は無性生殖の場合とは異なり、両親の遺伝子型が混合されたものになります。最も一般的にみられる無性生殖の方法は、親サンゴの群体の小さな破片が別の独立した群体に成長するという破片分散です。しかし、ごく少数の種類のサンゴは、群体を形成することができる胞子の様な構造をしたプラヌラ幼生というものを放出する方法を取ることで知られています。どちらの生殖方法でも遺伝子型は親サンゴのものが新しい群体に複製されます。
中島博士が本研究で採取したサンゴは、遺伝学を用いた調査により、インド洋太平洋地域の熱帯・亜熱帯沿岸海域でよく見られるホソエダハナヤサイサンゴというイシサンゴの一種と同定されました。 ハナヤサイサンゴ属は有性生殖も無性生殖も行うことで知られています。 今回の場合は壊れたサンゴの断片が確認できなかったため、新しい群体は破片分散によるものではないと研究者たちは考えました。 その代わりに、あまり知られていない他の無性生殖方法、すなわちプラヌラ幼生の放出か、あるいは「ポリープ・ベイルアウト」と呼ばれる現象によりポリープ自らが脱出して、新しい生活のために泳いで他の場所で生息し始めたことによるものと推測しました。
これらが無性生殖由来であるかを確実に調べるため、研究者たちはサンゴのDNAを配列決定し、親サンゴの可能性がある群体と新しく出来た群体の関係を、9つのマイクロサテライト遺伝子座において突然変異率が高く、かつ反復している短いDNA配列の箇所を用いて比較することにしました。すると 9つの遺伝子座の全てが多型性の反復を有し、水槽内に見られた成長したサンゴ群体のマイクロサテライト遺伝子型パターンは、ほとんどの新しいサンゴ群体の遺伝子型パターンと一致しました。
これまでの研究例では、オーストラリアと台湾の実験施設でハナヤサイサンゴ属のこのような無性生殖が観察されたことはありましたが、沖縄で観察されたのは今回が初めてです。 一方、この新しい群体がプラヌラ幼生の放出によって形成されたのか、ポリープ・ベイルアウトによって形成されたのかは不明で、後者の場合だと環境条件が将来のサンゴ群体の生残を脅かしかねないストレスの多いものということになります。
中島博士と研究者たちは今後もホソエダハナヤサイサンゴが異なる環境の条件下でどのように繁殖するかをより深く理解するためのさらなる実験を計画しています。同博士は、「ホソエダハナヤサイサンゴは沖縄のサンゴ礁の基本構造を形成する一般的なイシサンゴの種類の一つです」と述べ、この種類のサンゴが生き残るために取ってきた生存戦略を理解することにより、将来のサンゴ保全における効果的な技術設計に役立つ、と期待しています。
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