スピン液体を探求する

カゴメ格子構造は日本の竹細工の模様になぞらえて名づけられました。この構造は、スピン液体を発生させやすいことで知られています。

 OIST量子理論ユニットのカリム・エサフィ博士、オーウェン・ベントン博士、ルドヴィック・ジョウベルト博士の3人は、物質が示す非常に際立った状態である「スピン液体」について探求し、また、この状態が物理学の分野に大きな進展をもたらすかどうかを見極めるべく、日々奮闘しています。そうした研究成果は、量子コンピュータの開発にすらつながるかもしれません。しかし、その夢を実現させるには新物質群のさらなる探求が必要です。

 スピン液体を作る重要な基本要素は、原子に付随する微小磁子の自転運動です。これは「スピン」とも呼ばれるものです。これら何十億個もの微小なマグネットが整然と上手い配置を取って並んだ際には、電磁力を生み出すことになります。この電磁力によって冷蔵庫に磁石がくっつくのです。

 「磁」石という単語からは、電「磁」力を持つ物質という意味が連想されますが、すべての磁石がこの力を生み出すわけではありません。とは言っても、磁石を冷却すると、ほとんどの場合、磁石は単純なものから複雑なものまで、とにかく秩序をもったパターンを作ろうとします。

 「スピン液体」とは、冷却されても物体を構成する原子中の磁子が秩序を形成しない非常に稀な現象です。固体と液体の違いになぞらえるならば、磁子の集団は原子が整然と並ぶ固体のような構造を取るわけではなく、まるで液体のように、絶えず動きを保ち続けるのです。水のような普通の物質では、高い温度では気体となって物質は非常に無秩序な状態となりますが、温度が下がれば、規則的な配列を取るようになり、低温では秩序だった構造の固体、つまり氷となります。

 「科学的にはまったく腑に落ちないことです。物質を冷却すれば、秩序が生まれると考えがちですから。例えば、水を冷やし、冷却し続けたとしても凍らないとしたら、非常に不思議な話でしょう。」とジョウベルト博士は説明します。

 スピン液体についてより深く調べるには、複数のスピン液体を分類し、それぞれのスピン液体の中で何が起きているかを理解するための写像操作を打ち立てることが有用です。このたび研究チームは、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)誌に論文を発表し、ジョウベルト博士によると、その中で、「スピン液体についての全体像」を示す、スピン液体のカゴメ格子写像について論じています。ここでいうカゴメとは、日本の竹細工の模様にちなんで付けた名前で、彼らが研究をしてきた物質の格子構造を指します。

カゴメ格子の籠
OISTチームが研究し、マッピングしたある物質のグループは、その名前をカゴメ格子の籠に由来するようにカゴメ構造をしています。

 研究チームは、今まで最も研究されてきたスピン液体を、異なる二つの、そしてほとんど探求されてこなかったモデル、つまり新しく実現する可能性を秘めた物質に対応づけることが可能であると論文で述べています。その未開拓の二つのモデルは、鏡に映したときに互いにぴったり一致しない鏡像の関係にあり、これを「互いにキラル(chiral)である」と言います。ふたつのモデルはスピン液体であるのですが、さらに新たな驚くべき磁気特性があるというのです。

 このようなわけで、この新たな二つのモデルに対応する新しい物質中に、スピン液体を発見できるかもしれないのです。これらのモデルでスピン液体を探索し続けること、そしてとりわけ、スピン液体が見つかる可能性のある対応物質を探し続けること、その事の重要さを本研究成果は示しています。また研究チームは、異なるモデル間に存在する類似性を見つけることで、物理学分野における異なる領域の中に似たようなパターンを見出す一歩につながると期待しています。

 ジョウベルト博士は、「私たちは、物理学の異なる側面をつなぎ合わせたいと考えています。というのも、物理というのはすべて同じ数学の方程式によってコントロールされているものですから。」と説明しています。

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