A.ミケェエブ博士が遺伝子変化した作物によるハキリアリの生息地拡大を発見

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Attamycesキノコの上を移動するハキリアリ。
手前右の小さいアリは食糧をくわえている。
写真提供:アレキサンダー・ミケェエブ博士

南米北部にくまなく張りめぐらされ、南はアルゼンチンまで広がり、北はテキサス州をうかがう広大な地下の工場式農場で、何十万もの労働者が24時間シフトで食糧を栽培しています。その労働者とは?ハキリアリです。ハキリアリの社会は世界の不思議のひとつです。その社会的集団は数千万を数え、各コロニーで消費される植物の量は牛1頭による消費量に匹敵するともいわれています。OIST生態・進化学ユニット若手代表研究者のアレクサンダー・ミケェエブ博士は、2月22日付けの米国科学アカデミー紀要に共著者として論文を発表しました。この論文は、ハキリアリの行動と分布の北限要因に関する新たな証拠を示しており、今後の生息地拡大の予測にもつながるものです。

それぞれの巣から数千匹のハキリアリが葉を新たに切り取って集めるために出ていき、これを巣に持ち帰ります。この植物質は丁寧に処理され、ハキリアリの唯一の食糧であるAttamycesというキノコの培養床となります。葉から得られる樹液を除けば、ハキリアリはこのキノコのみを食べて生きます。生存のため、ハキリアリは驚くほど熱心に作物を育て、手入れをします。

Attamycesがうまく生育する条件のひとつは、適正な栽培温度です。ハキリアリ種の大部分は、温度と湿度が一年を通して大きく変化しない熱帯地域、一般に熱帯雨林に生息しています。熱帯性Attamycesの生育速度は25℃前後が最適です。温度が20℃を下回ると生長が遅れ気味となり、10℃を下回る温度に長時間さらされることは熱帯性Attamycesにとって致死的となることがあります。

ミケェエブ博士は「人間の農業とアリの農業の共通点が次々に明らかになっており、これは驚きの連続です。キノコの耐寒性の背景にどのような遺伝的変化があるか、また、キノコの優れた適応性を人間の作物の改良に使用できるか、非常に興味深いです。」と述べています。

このたび研究チームは、分布北限域に生息するハキリアリAtta texanaが、低温感受性のAttamycesにとっては致命的な気温となる冬期にも、Attamycesキノコの栽培を続けていることを発見しました。温度勾配に対するハキリアリの触角感度は他のどの昆虫よりも敏感で、この感度があるからこそハキリアリは温度勾配を速やかに見極めることができます。また、同研究チームは、北限域に生息するハキリアリが、通常地表近くの栽培室を使用するものの、冬期に温度が下がると、この栽培室を壊して大事な作物を地下3メートルよりさらに深い場所にある栽培室に移すことをつきとめました。

高緯度の生息地においては、ハキリアリによるこの栽培床の引越し行動によって栽培室の栽培条件が改善されます。それでもハキリアリの熱帯性キノコが本来育つ暖かい土壌の温度と比較すると、さらされる温度には大きな差があります(約10~15℃)。研究チームは、異なる土地で採取した100以上のAttamycesの標本について調べました。その結果、熱帯性キノコの生育範囲をはるかに超える低温耐性を可能にするような遺伝的変化がAttamycesにおいて生じたのであろうとの結論に至りました。人間の農業と同じく、アリの世界においても農業の革新がハキリアリに大きな繁栄をもたらしました。人間とハキリアリによる極地への分布拡大を制限した唯一の要因は、熱帯または温帯起源である利用作物の耐寒性の低さです。しかし、本研究により、栽培品種の耐寒性を選別することで農業の地理的範囲をある程度拡大できる可能性が示されました。

【発表論文 詳細】
発表先および発表日: 2月22日付 米国科学アカデミー紀要
論文タイトル: Evolution of cold-tolerant fungal symbionts permits winter fungiculture by leafcutter ants at the northern frontier of a tropical ant–fungus symbiosis (耐寒性を獲得したキノコにより、熱帯性アリ・キノコ共生の北限におけるハキリアリの冬期キノコ栽培が可能となる)
著者: Ulrich G. Muellera,b, Alexander S. Mikheyeva,c, Eunki Honga, Ruchira Sena, Dan L. Warrena, Scott E. Solomona,d, Heather D. Ishaka, Mike Coopera, Jessica L. Millera, Kimberly A. Shaffere,a, Thomas E. Juengera,b
     a Section of Integrative Biology, University of Texas at Austin, Austin, TX 78712, USA.
     b Institute for Cellular & Molecular Biology, University of Texas at Austin, Austin, TX 78712, USA
     c Okinawa Institute of Science & Technology, 1919-1 Tancha, Onna-son, Kunigami, Okinawa 904-0412, Japan.
     d Department of Ecology & Evolutionary Biology, Rice University, 
Houston, TX 77005, USA.
     e School of Life Sciences, Arizona State University, Tempe, AZ 85287, USA.

 OISTについて
沖縄科学技術大学院大学は、沖縄において、科学技術の分野で世界最高水準の教育研究を行い、沖縄の自立的発展と世界の科学技術の発展に貢献することを目的として設立される新しい大学院大学です。その設置準備を進める沖縄科学技術研究基盤整備機構では、現在27の研究ユニット(研究スタッフ総数約170名)が神経科学、分子科学、数学・計算科学、環境科学などの学際的な分野での研究活動を実施しています。国際的なコースやワークショップの開催により、国際的な認知度も高まりつつあります。本年3月、文部科学大臣に対して、大学院大学の設置に関する認可申請を行う予定です。

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