次世代太陽電池材料の電子ダイナミクスを解明
OISTのフェムト秒分光器ユニットの研究チームは、次世代太陽電池の有力な候補としてあげられている半導体材料の基本的な特性を調べています。
最先端の材料特性評価技術を用いて、エネルギー装置の性能や安定性に悪影響を与えるプロセスに焦点を当て、新材料の電子ダイナミクスを研究しています。フェムト秒ポンプ・プローブ分光法などの高度な時間分解能を有する技術と、光電子顕微鏡法などの高度な空間分解能を実現する高機能のイメージング技術を組み合わせることで、太陽電池材料中の電子の動きを短いタイムスケールで調べることができます。「時間分解光電子顕微鏡法」と呼ばれる同技術は、最先端の材料特性評価技術であり、このような技術を持つ研究グループは世界的に見ても非常に稀です。
これまで同研究チームは、太陽電池デバイスの基礎となる「タイプⅡヘテロ接合」と呼ばれるプロトタイプの積層材における超高速電子移動のイメージングの研究を行ってきました。現在は、将来の太陽電池材料として普及が期待される有機無機ハイブリッドペロブスカイトの効率を制限する欠陥の原因究明に力を注いでいます。
将来的には、研究対象を拡大して、有機半導体ポリマーブレンドにおける電子ダイナミクスの研究を行うことを計画しています。同材料は、将来の太陽エネルギー装置の素材として有力視されている柔軟性のある有機太陽電池の基礎となるものです。
研究チームは、時間分解光電子顕微鏡法の他にも、従来の超高速分光法を用いて、原子レベルの薄さの無機半導体と有機半導体ポリマー薄膜の新たなタイプⅡヘテロ接合である二次元有機無機ハイブリッドヘテロ接合を研究してきました。同研究は、超薄型光電子デバイスの開発に応用できると期待されています。
こうした基礎研究は、再生可能エネルギーの開発に貢献し、安価で効率的な太陽電池材料の生産に向けた将来の研究の指針となっています。
プロジェクト協力団体・個人
- Stranks S. D. エネルギー講師兼王立協会大学研究フェロー(ケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所)
- Manish Chhowalla ゴールドスミス材料科学教授(ケンブリッジ大学)
プロジェクト関連出版物
- Man, M., Margiolakis, A., Deckoff-Jones, S. et al. Imaging the motion of electrons across semiconductor heterojunctions. Nature Nanotech 12, 36–40 (2017). https://doi.org/10.1038/nnano.2016.183
- Doherty, T.A.S., Winchester, A.J., Macpherson, S. et al. Performance-limiting nanoscale trap clusters at grain junctions in halide perovskites. Nature 580, 360–366 (2020). https://doi.org/10.1038/s41586-020-2184-1
- Petoukhoff et al. Charge transfer dynamics in conjugated polymer/MoS2 organic/2D heterojunctions. Molecular Systems Design & Engineering 4, 929-938 (2019). https://doi.org/10.1039/C9ME00019D
- Petoukhoff et al. Ultrafast Charge Transfer and Enhanced Absorption in MoS2–Organic van der Waals Heterojunctions Using Plasmonic Metasurfaces. ACS Nano 10, 11, 9899–9908 (2016). https://doi.org/10.1021/ACSNANO.6B03414