ウクライナのためにできること―サマースクールで若手研究者を支援
沖縄科学技術大学院大学(OIST)進化・合成生物学ユニットのヒョードル・コンドラショヴ教授が、初めてサマースクール(主に夏の長期休暇を利用して実施される体験・学習型のプログラム)の開催に携わったのは、弱冠15歳の時でした。それ以来、世界7カ国で実施された20以上のサマースクールの企画・運営に携わってきました。
そして今回、コンドラショヴ教授は、2023年7月2日から14日までの2週間にわたり、ウクライナ西部の都市ウジホロドにあるウジホロド国立大学で、生物データサイエンス分野のサマースクールの開催を支援しました。
サマースクールでプログラミング言語「Python」のコースを担当したウクライナ出身のラダ・イサコヴァさんは、OIST進化・合成生物学ユニットの元インターンであり、過去にコンドラショヴ教授が開催したサマースクールの参加者でもあります。現在ラダさんは8月からOISTの研究員としてユニットに再び戻り、遺伝子とタンパク質の進化を研究しています。
サマースクールプログラムは、生物学、数学、コンピューターサイエンスなどのバックグラウンドを持ち、バイオインフォマティクスや生物学的データ解析のスキルを身につけ、向上させることに関心を持つウクライナの若手研究者を対象として開催されました。バイオインフォマティクスは学際的な科学分野であり、生物学的データを理解するための手法やソフトウェアツールを開発・応用する学問です。
学生たちは、理論や概念についての講義や実習を通し、バイオインフォマティクスと計算データ解析の基本的かつ高度な手法を学ぶと同時に、世界中の科学者との交流を楽しみました。
「基礎となる基本的なツールに加えて、適切な統計解析や機械学習の方法といった技術も教えました。学生たちの興味や関心に合わせてそれぞれが選択できるようなプログラムも用意しました。」とコンドラショヴ教授は振り返ります。
英語とウクライナ語の両言語で行われた本プログラムには、ウクライナ出身の学部生、修士課程の学生、そして数名の社会人が参加していました。英語によるプログラムには国際的な教授陣が、そしてウクライナ語によるプログラムでは、国内の大学院生が教鞭をとりました。
ほとんどの学生はプログラミング初心者で、情報学の経験はありませんでした。学生たちは、生物学的配列(核酸やタンパク質の単一で連続した分子)の扱い方やそれらの比較方法、配列の進化を研究する理由の背景などを学びました。
「あえて週ごとに異なる教師陣になるようプログラムを編成したことで、多様性が生まれ、生徒たちは様々な科学者と交流することができました」とラダさんは話します。
ラダさんが科学の道に進んだのは、このようなサマースクールに参加したことがきっかけでした。。「高校生のときに、初めての海外経験としてサマースクールに参加しました。科学の国際的な世界に初めて触れ、科学者が興味深く楽しい人たちであることを身をもって知り、自分も彼らのように科学の道を目指そうという決意につながりました。」
ラダさんは今回のプログラムの意義を次のように話します。「ウクライナ人として、このプログラムは国内の科学とバイオインフォマティクスに貢献する素晴らしい機会になったと思います。この分野に興味を持つ学生が一同に集まり、ウクライナのバイオインフォマティクスと国際的な科学を結びつけることできました。」
コンドラショヴ教授は、ウクライナの科学者を一貫して体系的に支援することが重要であると述べています。特に18歳から60歳までのウクライナ人男性は戦争のために国外に出ることが許されていないため、遠隔地での機会を設けることが重要であると話します。「こうした支援によって、ウクライナの若手科学者が長期的に科学への情熱を持ち続け、戦争による心理的ストレスのために研究を断念するようなことがなくなってほしいと願っています。サマースクールプログラムを企画してきた長年の経験から、今回ウクライナの学生のためにプログラムを企画するということは、私にとってごく自然な流れだったと思います。」
そして次のように続けました。「ロシアによるウクライナ侵攻以降、現地で国際的な科学プログラムを実施したのは、私たちが初めてかもしれません。私たちがウクライナに物理的に滞在することは、地元の科学コミュニティを支援する機会であると同時に、国際社会に対して、ウクライナにおけるこうした活動が重要であるということを広く伝える機会でもあるのです。」
OISTは2022年3月に、ウクライナ科学者及び学生支援基金を設立しました。この基金により、OISTは一時的かつ人道的な理由でウクライナから奨学生や学生を受け入れ、また既にOISTに在籍しているウクライナ人スタッフや学生に支援を提供しています。
サマースクールの詳細はこちらをご覧ください: バイオ・データ・サイエンス^3 (bds3.org)