文化を超えて科学と伝統をつなぐ橋を架ける
太平洋を約8,000km隔てているにもかかわらず、沖縄とハワイの人々には、多くの共通点があります。ともに小さな島々からなる群島から成っているということは、生活が陸と海の両方に支えられていることを意味します。また、環境及び経済面でサスティナビリィティ(持続可能性)が重要であること、そして資源を大切にする人材を育てていくことが重要である、という認識を共有しています。
さらに、沖縄とハワイはお互いの社会政治的背景や統治の歴史が似ており、その影響は現在も残っています。例えば、教育の機会が限られているなど、「本土」の人々と比べて不利な状況に置かれています。しかし一方で、土地に伝わる豊かな遺産があり、天然資源管理に強く結びついた文化的な慣行もあります。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)とハワイを拠点とする非営利団体クアアーイナ・ウル・アウアモ(KUA)が運営する新しいアウトリーチプログラムは、こうした類似性を利用して、伝統的な天然資源の管理方法に焦点を当てた異文化間の学習交流を進めます。名称は「シマ」。沖縄―ハワイ間の共同STEM教育(STEMは、Science, Technology, Engineering and Mathematicsすなわち科学・技術・工学・数学の頭文字をとったもの)です。このプログラムでは、沖縄とハワイの学生約10名ずつが、海藻養殖を中心としたプロジェクトに取り組みます。
「先住民の教育では科学教育を重視しています」と語るのは、 OIST大学院研究科の副研究科長で、ハワイ大学ヒロ校元海洋科学教授及び元副総長のミサキ・タカバヤシ博士です。「ハワイでは、人々は土地の世話をする責任があると強く信じています。子どもたちはこの責任を理解し、海洋科学を学ぶのは当たり前のことです。ネイティブハワイアンとしてのアイデンティティと、科学の専門家としてのアイデンティティは一致しています。これを沖縄の生徒たちに見てもらいたいのです」と、彼女は話しています。
プログラムは2021年5月の開始を予定しており、自主学習とウェブ上での共同ディスカッションの両方を行います。沖縄では、生態学や化学から環境管理まで、海藻養殖に関わる様々なテーマを取り上げ、地元の海藻養殖農家の指導を受けます。
OIST科学教育アウトリーチチームリーダーのメリア・ミラーさんは、「海藻養殖は、地元の伝統的慣行の重要な一部であり、これをテーマとすることで、海藻の種類、属性、用途に加え、赤土の流出、海洋汚染、サンゴ礁の保全などの関連問題について話しができる機会となります。県内各地から学生が参加するので、地理的な多様性も見られます」と説明します。
沖縄とハワイの学生は最終的に2021年8月にハワイで顔を合わせて最終プレゼンテーションを行う予定です。ハワイ側のプログラムをコーディネートしているのは、KUAという非営利団体で、共有の責任を通じて持続可能性を向上したり、生物文化資源を保護する活動を支援しています。KUAは、コミュニティの幸福をサポートするʻāāina momona(豊かな生態系)というビジョンのもと、漁師、農家、採集者、そして農村部やハワイ先住民コミュニティの家族のネットワーク構築を促進しています。
「私たちは、経済との関係、お互いの関係、環境との関係を見直す必要があります」とKUAの共同ディレクターであるミワ・タマナハ氏は言います。「そのための方法の一つとして、人々と環境とのつながりを育むことがあります。私たちの学生は、STEMを行うことを渇望しており、天然資源は、数学、科学、技術に対する情熱を、生きた体験とアイデンティティにつなぐ橋渡しをしてくれます。このプログラムは、沖縄の学生との交換留学を行う機会があることが特に魅力的です。私たちは似たような歴史や生態系のつながりがあり、そしてお互いから学ぶことがたくさんあります。」
ハワイ固有のリム(海藻)を管理する専門家、教育者、研究者、家族のネットワークKUA’s Limu Huiのコーディネーターであるウォーリー・イトウさんは、2019年10月に沖縄を訪れたことをきっかけに、次のように語っています。 「ほぼ全ての食事に海藻が入っていることに気づきました。私たちは恩納村で海藻を栽培している場所を訪ねました。かつて豊富にあった資源を取り戻すために、地域でリムを栽培したいという人たちの関心が高まったのは、ここ数年のことです。それを沖縄で見て、私はハワイでのリムの復元事業をどうやって拡大していくかを考えました。」
OISTの学長室付シニアアソシエイトであるパン・ジェさんとシニア・アドバイザーであるデイヴィッド・ジェーンズさんの協力を得て、シマ・プログラムは在沖米国総領事館アニュアルプログラムから1万ドルの助成金を獲得しました。コーディネーターは、今後数年間で、海藻からサンゴ礁の保全などにテーマを変えて同様のプログラムを運営していきたいと考えています。
このプログラムは、学生たちにとって重要な学習や文化体験となるだけでなく、科学やOISTとのつながりを育むという長期的な目標にも合致しています。OISTの学外エンゲージメントセクションのアシスタントマネージャーであるグスマン勇気さんは、「高校生は将来のことを考える岐路に立たされます。今回のようなアウトリーチプログラムを通じて、早い段階からSTEM活動を紹介し、意思決定の手助けをしたいと考えています。その後も、科学ワークショップ、研究インターンシップ、そしてできれば博士課程のプログラムを通じて、科学やOISTとの関わりを維持してもらいたいと考えています」と述べています。