低コストで一定面積を持つ太陽電池モジュール、安定性が劇的に増大
本技術は、数あるOISTによるライセンシング可能なシーズの一例です。ライセンスに関する詳細は以下をご覧ください。
Perovskite Solar Cell
沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らは、将来有望な太陽電池技術として知られているペロブスカイト太陽電池(PSC)の根本的弱点を解決しました。今回の技術革新により、デバイスの安定性と拡張性が一気に向上したことで、PSC市場導入の鍵となるかもしれません。
この第三世代の太陽電池は、太陽光を使用可能な電気に効率的に変換し、従来のシリコン型太陽電池よりも製造コストが少なく済みます。特にPSCは、その低コストと、高い変換効率により、学術界と産業界の注目を集めています。ただしPSCの性能は、実験室での試験においては前途有望ですが、発電装置は依然として低い安定性が悩みの種であり、ある程度の耐久性を持つようになるまで、商業的に製造することは不可能です。
「少なくとも5年から10年の耐久性をもつ太陽電池モジュールが必要です。現時点では、PSCの寿命はこれよりもずっと短いのです。」と、ヤビン・チー准教授率いるエネルギー材料と表面科学ユニットのポスドクで本論文の筆頭著者であるチュウ・ロンビン博士は説明しています。
2018年12月13日、Advanced Functional Materialsのオンライン版に掲載された本研究は、PSCで一般的に使用される二酸化チタンと呼ばれる材料が、装置を劣化させ、耐久性を制限している、というこれまでの報告を裏付けています。そこで研究者らは、劣化しやすい特性がなく、より強固な導体である二酸化スズを、二酸化チタンの代わりに置き換えました。そして、安定性があり、効率的かつ拡張可能なPSCを作製するため、二酸化スズの使用法も最適化しました。
実験において研究者らは、二酸化スズの装置は、二酸化チタンを使用したPSC装置よりも、3倍以上寿命が伸びることがわかりました。「二酸化スズは、ユーザーが求める性能を提供できるのです。」と、チュウ博士はコメントしています。
改良されたデザイン
PSCはそれぞれが特定の機能を持つ層状の材料で構成されています。ペロブスカイト材料から作られた「活性層」は、光子と呼ばれる粒子状の太陽光を吸収します。光子が太陽電池に衝突すると、負に帯電した電子と正に帯電した正孔が活性層に生成されます。研究者らは、二つの「輸送材料」の間に活性層を挟むことにより、電子と正孔の流れを制御しています。
電子が正しい方向に流れるように、多くのPSCには「電子輸送層」が含まれています。ほとんどのPSCは、電子輸送層として二酸化チタンを使用していますが、太陽光に曝されるとペロブスカイトと反応し、結果として装置を劣化させてしまいます。一方、二酸化スズは二酸化チタンの実現可能な代替材料として候補に挙がっていましたが、本研究以前には、大規模な装置に組み込まれた成功実例はありませんでした。
そこで研究者らは、スパッタリング蒸着と呼ばれる、業界でよく使われる手法を用い、二酸化スズの層側から効果的な電子輸送層を作製する方法を編み出しました。ここで言うスパッタリング蒸着は、二酸化スズをターゲットとする面に対して荷電粒子を衝突させることにより、待ち受けている側の面に上方噴霧させることで機能させます。研究者らは、スパッタリング蒸着の強度と堆積速度を正確に制御することによって、一定の面積においても均一な厚さを有する滑らかな層を作製しました。
この新しい太陽電池は20%以上のエネルギー変換効率を達成しました。 次に研究者らは、拡張性を実証するために、22.8平方cmの実働面積を持つ5cm四方のソーラーモジュールを作製し、本装置において12%以上の効率が達成されました。OISTの技術開発イノベーションセンター(TDIC)の概念実証(POC)プログラムの一環となる本研究は、PSC効率に関する現在の業界基準を満たした重要な前進と言えます。
商業化に向けて
研究者らは、効率を向上させた大規模太陽電池モジュールを製造することを目的として、PSC設計を引き続き最適化することを目指しています。本研究ユニットは、フレキシブルかつ透明な材料を用いたソーラーデバイスを用いた実験を通じ、最適化されたPSC設計を、発電する窓ガラス、カーテン、リュックサック、展開可能な充電ユニットなどに応用することを目指しています。
「これらのデバイスを大規模にスケールアップしたいと考えています。既に効率の面では妥当なレベルとなっておりますが、さらに進化させたいのです。今後数年間でこの技術を商業化できるのではないかと期待しています。」と、チー准教授は語っています。
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