気泡と囁き-ガラス気泡がナノ粒子検出を大きく躍進
この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者が、ガラスの微小気泡を利用して作製した技術により、文字通り光を当てることにより、微小粒子の存在を検出できるようになりました。
本技術は、「ウィスパリング・ギャラリー」として知られている特定な物理現象に由来します。1878年、英国人物理学者のレイリー卿(ジョン・ウィリアム・ストラット)が、ロンドンのセントポール大聖堂のギャラリー内の音響効果にちなんで名付けたのですが、円形ドーム型のギャラリーの片側で呟かれた囁きは、反対側でもはっきりと聞こえます。音波がドームの壁に沿って反対側まで移動するこの効果は、ウィスパリング・ギャラリー共振器(WGR)と呼ばれる、人の毛髪の幅にも満たない微小幅のガラス球内の光を利用して再現できます。
光が球内に照射されると、球の内面を何度も反射しながら、光学カルーセルを作ります。 小さな球の内部を反射する光子は、時には100メートルもの遠距離を移動することもあります。 しかし、光子が球の内側表面を跳ね返る度、少量の光が外に逃げていきます。 この漏れ出た光は、「エバネセント光の場」として知られています。この漏れ出す光が球の周りに一種のオーラのようなものを作り出します。さらにこのエバネセント光の場の内側にナノ粒子が来ると、波長を歪め、効果的に場の色を変化させるのです。この色の変化をモニタリングすることにより、WGRをセンサーとして使用することができます。 これまで複数の研究グループが、溶液中の個々のウイルスを検出する目的で、このようなセンサーを使用したこともあります。 しかしこの度、OISTの光・物質相互作用ユニットの研究者らは、従来の研究成果をもとに、より感度の高いセンサーを設計しました。本研究成果は Optica に発表されました。
OISTのジョナサン・ワード博士はWGRを利用し、従来よりも効率的に微小粒子を検出しようとしています。同博士によると、この度作製されたWGRは、球というより、むしろ空洞のガラスの泡のようなものとなります。「ガラスの管をレーザーで加熱し、空気を吹きかけました。この手法は伝統的なガラス吹きとよく似ています」と、ワード博士は説明します。加熱されたガラス管に空気を送り込むことで、感受性の高い光の場をサポートしうる球状の空間が生まれるのです。吹きガラスとこの精密な機器との最も顕著な違いは、スケールです。この精密機器のガラスの泡は最小で100ミクロンほどの大きさしかなく、1ミリメートルの数百分の一以下と、非常に微小なのです。このような微小サイズのため、壊れやすいものの、同時に展性があります。
ワード博士は理論モデルから本研究を始め、ただの固球体よりも内側に空洞を持つ球体(つまりバブル状のもの)を用いることで、光の場を大きくすることができることを示しました。大きな光の場を持てれば、粒子を検出できる範囲も増加し、センサーの検出性も増します。ワード博士は説明を続けます。「私たちには、WGRを作製する技術も、使うべき材料もわかっていました。その次のステップとして、現在使われているタイプの粒子検出器よりもWGRの性能が優れていることを、実証しなければなりませんでした。」
本装置のコンセプトを証明するため、研究チームは比較的簡単なテストを編み出しました。まず、ガラスの気泡をポリスチレンの微小粒子を含む溶液で満たし、その液体で満たされた内部に光の場を生成させるため、ガラスフィラメントに沿って光を当てました。その結果、粒子が光の場の範囲内を通過する際、標準的な球状WGRよりも、はるかに顕著に波長をシフトさせていることが観察されたのです。
より効果的なツールを使えるようになったOIST研究チームは、次の課題として、本技術の応用法を見つけようとしています。異なる材料が光の場に対してのどのような変化をもたらせるかを知ることで、ワード博士はその変化をもたらすものを特定し、それを研究対象にそのふるまいをも制御したいと考えています。
壊れやすいという欠点はありながらも、この新たなWGRの作製は容易であり、しかもカスタムメイドのケースを用いれば、安全に運搬できるので、幅広い分野での使用が可能です。例えば、汚染を検知するために水中の毒性分子を検出したり、限られた医療活動しか提供できない僻地で、血液媒介ウイルスを検出したりすることもできるようになるでしょう。
ワード博士は、改善の余地はさらにある、と語っています。「私たちは常に、より感度を高めることで、センサーが検出できる最小の粒子を見つけることを追求しています。検出限界を物理的な限界まで押しあげたいと考えています。」.”
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