シロアリ腸内微生物の進化の起源が明らかに
枯れ木、落ち葉、土埃といったものは、私たちにとっては、庭のゴミのように見えるかもしれません。 しかし、シロアリにとっては栄養価の高い食事です。
シロアリは、木材を常食として生きていくことができる非常に稀な生物のひとつです。 この特殊能力により、熱帯の陸上動物のうちで最も多く生息している種のひとつになり得たのですから、シロアリは自分たちの腸内細菌に感謝しなければなりません。
多くの動物は、消化プロセスにおいて腸内微生物群に頼っています。 例えば、ヒトの消化管には約39兆個の細菌が存在しています。 しかしシロアリの腸内は、 動物の中でも最も複雑な微生物叢(そう)を持っています。すなわち、多様な細菌、原生生物、菌類からなる複合体を腸内に保持し、木材中のリグノセルロースなどの通常動物が消化できないものを分解し、それらから必須栄養素を抽出しているのです。
シロアリの腸内細菌叢については一世紀以上もの間研究されてきましたが、 それがどのように進化してきたかという重要な疑問については研究者の間でも意見が別れていました。
シロアリの腸内細菌叢は、 親から子へと「垂直伝播」と呼ばれる様式で継承されているとされてきました。しかし一方で、進化の過程において固有の食性を持つ系統でそれぞれ独立に環境中から獲得されたとする「水平伝播」と呼ばれる様式を支持する研究者もいます。
OISTの進化ゲノミクスユニットはシドニー大との共同研究で、シロアリ腸内微生物についてこれまでにない規模でのDNA調査研究を行っており、この度、上記の仮説の双方を統合する答えを見つけました。
「私たちは、シロアリは主に親と、他のシロアリのコロニーの両方から、腸内細菌を得ることを発見しました。 すなわちこれは、150万年に及ぶシロアリの進化過程において、垂直伝播及び水平伝播の両方が重要であったということを意味するのです。」 と、ユニットを率いる トマ・ブーギニョン准教授は説明します。
過去のシロアリ研究は、限られた範囲の場所や食性から採取された 20種以下のサンプルに基づいたものでした。ところが、今回の研究でトマ・ブーギニョン准教授らは、アジア、オセアニア、南米、 アフリカの 4つの異なる大陸にまたがって採取された94 種もの異なる シロアリの腸内から211種類に及ぶ細菌系統を分析しました。本研究成果は、Current Biology誌に掲載されました。
シロアリ腸内細菌からDNAを抽出し、 細菌種を識別するためによく使用される16S rRNAと呼ばれる遺伝子の特定領域を解析しました。 この遺伝情報を使うと、細菌種間の系統関係を再構築する事ができ、それらの進化の歴史を推定する事ができます。
結果として、 シロアリ腸内微生物叢が、コロニー間の水平伝播及び、親コロニーから子コロニーへの垂直伝播を組み合わせた「混合様式」によって形成されていることが示されたのです。
細菌がシロアリの世代間で垂直に伝播すると、シロアリの宿主と共に進化することとなり、食餌、 生息地、および病気の特徴に非常に特異的なものとなります。 「私たちが見つけた細菌の多くはシロアリの体内にしか存在せず、中にはシロアリ腸内の特定の部位にしか含まれないものもありました。」とブーギニョン准教授は説明します。
垂直伝播は人間の腸内微生物叢においても重要です。 2016年には、私たち人類の腸内微生物の一部は、祖先を共有する大型類人猿のものと同じであることが明らかになりました。
しかし、シロアリの生活様式を見てみると、腸内細菌の水平伝播を受けやすい特徴を持っていることがわかります。争いの最中に強いシロアリが弱いシロアリを食べてしまうことがよくあるため、シロアリ間を細菌が伝播し得るのです。 シロアリはまた、糞便を摂取することによって土壌又はその他の食料源を介し、 他種のシロアリ、 あるいは全く異なる動物由来の腸内細菌を摂取している可能性もあります。
進化の過程で宿主を切り替える細菌があるという発見により、 シロアリ腸内細菌のいくつかの種は、これまで考えられていたよりもはるかに広い範囲の生物種に伝播されていた可能性があります。
進化ゲノミクスユニットは現在、 木質の分解に関与する特定の酵素群についての知見を深めるため、シロアリ腸内細菌の遺伝学についてさらなる研究を行っています。
「この興味深い生き物については、まだまだ学ぶことがたくさんあるのですよ。」とブーギニョン准教授は目を輝かせます。
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