ロボットの手を借りて乗り越える研究の壁
信頼できるデータは科学の基礎です。その基礎の上にこそ「知の聖堂」を築くことができます。この観点からすると、生物材料からの試料調製はやりがいのある難題です。「問題は試料の均質性です」と語るのは、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の機器分析セクションでアシスタントマネージャーを務めるアレハンドロ・ビジャールブリオネス氏です。「この問題には人間の要素が関わっています。つまり、実験を行う研究者や技術員は一人一人が違うし、数年の訓練を受けた後でも、生物学的解析に用いる試料調製は、やはり難しいものです。例えばDNAやRNAあるいはタンパク質の抽出において、多数の試料調製のため数百回も同じ手順を繰り返すような場合、最後に得られた試料のセットには必ずばらつきが生じてしまうことになります。」試料調製の技術や手順の習得には時間がかかるので、経験の浅い研究者が実験するときには、この問題はより深刻です。現代の科学界の情勢の中では、技術の修行に十分な時間を確保するのは必ずしも容易なことではありません。
この問題を解決するため、最近OISTでは、 新しい試料調製ロボットを導入しました。「目的は、OISTの研究者が、極めて緻密に調製された試料を基礎とする、優れた研究成果を生み出せるように支援することです。」と、ビジャールプリオネス氏は言います。「ロボットの作業速度は技術員より早いわけではありません。しかし、熟練した技術員がするよりも、非常に安定して、より均質な試料を調製することができるのです。しかも、ロボットは昼夜を問わず週末でも作業することができるため、速度の遅さなどは実際にはすぐに挽回できて、制約にはなりません。」
例えば、存在量の少ないタンパク質を研究する際には、調整した試料中での目的分子の濃度が極めて低いため、試料の品質ということが特に重要となります。実験結果を検証するためには、繰り返しの実験の中で、できるだけ多くの試料中に目的の分子が確実に含まれていなくてはなりません。ロボットはさらに、貴重で希少な生物材料を失ってしまうような実験操作上のミスを減らす効果ももたらします。「研究材料のなかには非常に希少で何度も繰り返して入手するのが困難なものがあります。このような貴重なサンプルを無駄にしたくありません。」と、ビジャールプリオネス氏は説明します。
今回導入したのは、荷重10Kgまでの物をあらゆる方向に運べる、強力で非常に柔軟な腕を2本持った人のような形をしたロボットです。長時間にわたる作業の精密さを維持するためにはこの並外れた「腕力」が必要です。このロボットは、ピペットや遠心分離機や超音波破砕機、濃縮機など、実験室に普通にある機器を使用して行う、多種多様な実験ができるように設計されています。現在ロボットは試験運用の最終段階にありますが、今後OISTの研究者にとって大切な資産となることでしょう。