操り人形師のごとき光
沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者たちは、ミクロンサイズの単一粒子を光で制御するためのより強力な方法を実証しました。
粒子を操作する光マイクロファイバーやナノファイバーの分野はこの10年間で拡大していき、物理学や生物学の世界で有望な用途がたくさんあります。ほとんどの研究は、「基本モード」として知られる光の基本プロファイルを用いたこの技術の利用に重点を置いています。OISTの光・物質相互作用ユニットの研究者たちは、光のプロファイルを「高次モード」に変えたことで、光の力が基本モードのときよりも強力になることを実証しました。この 力を利用すると、基本モードのときよりも格段に速く小さなポリスチレンビーズを捕え、マイクロファイバーに沿って動かすことができます。本研究結果は、このたびScientific Reports 誌に掲載されました。
「高次モードはより強い力を生成するということが理論的に提示されましたが、我々の知る限りでは、粒子の三次元操作が実験的に実証されたのはこれが初めてです」と、OISTの物理学者で論文の共著者であるヴィエット・ギアング・トルオング博士は語っています。
光は、様々な形状をとることができます。基本モードでは、通常、エネルギーは中心部で最も強く、ビームの縁にいくほど徐々に弱まります。これ以外の形状の光は高次モードと呼ばれています。例えば、このエネルギーパターンは、ドーナツのように見え、輪の部分にエネルギーの大半が含まれ、穴(中央部)にはエネルギーは含まれていません。科学者たちは、結晶に光を通すことで高次モードをつくることができます。
水中における粒子制御ではマイクロファイバーにレーザー光を伝搬させます。このファイバーの直径は、中心に向かって細くなり、中央部の「ウエスト」と呼ばれる領域で著しく細くなっています。光はファイバーを通過するとき、この非常に細いウエスト内部に収まることができないため、ファイバー周りにエバネッセント場をつくって広がります。このエバネッセント場はファイバー表面近くの粒子を捕らえることができるため、科学者たちは粒子の位置と運動を制御することができます。光の進行方向に対し粒子は移動します。
OISTの研究者たちは、基本モードと高次モードのそれぞれの光に対して粒子がどのように反応し、どちらのモードがより大きなエバネッセント場をつくりだすかを比較しました。その結果、高次モードを用いると、粒子が最大8倍の速度でマイクロファイバーに沿って移動することを確認しました。
「想定していたように速度増加を確認することができました。増加要因の一つはマイクロ流体力と考えられます」と、論文筆頭著者で、シーレ・ニコーマック准教授の指導の下、OISTで博士課程の研究を行っているアイルランドのコーク・カレッジ大学博士課程の学生アイリ・マイマイティさんは説明しています。粒子は速度を得るにつれ、ファイバーからわずかに離れます。これによって抵抗が減り、ますますその速度を増します。
実験成功の鍵の一つは、マイクロファイバーの形状を変更して、実験で用いるウエスト領域に達するまで光が漏れないようにしたことでした。マイクロファイバー直径は80ミクロンから始まり、次第に細くなってウエスト部で2ミクロンになります。研究者たちは、炎の上にファイバーをかざし十分に熱せられた後、徐々にファイバーを伸ばして中央部を所定の薄さにすることでテーパ部を作製します。
マイマイティさんは、ファイバーの全長にわたって光の損失が確実にごくわずかとなるようテーパ部の形状を制御しました。これにより、ウエスト部で粒子を制御するために用いられる光量エネルギーが最適化されます。
マイクロファイバーは非常に薄く、人の髪の約1/50以下の太さですが、ガラスの特性により、サイズのわりには驚くほど丈夫です。
「この実験により、マイクロファイバーの高次モードが粒子を捕らえて移動できることが示されました」と、トルオング博士は述べ、さらに続けて、「次のステップは、マイクロファイバー周りの複数の粒子を三次元的に制御することです。我々はまた、ナノファイバー周りの原子について同様な挙動を示してみせたいと切望しています」と述べています。
光マイクロやナノファイバーを用いた粒子の光トラッピングと操作は、例えば、標的細胞内のような特定の場所への薬物の送達、ならびに細胞成分間の相互作用力の測定を容易にするとともに、冷却原子を用いた量子物理学の研究に役立つ可能性があります。研究者たちはまた、DNAとRNAの転写および翻訳過程に関与するタンパク質を研究するためにこのツールを利用することにも関心を抱いています。
本研究では、研究者たちはマイクロファイバーの使用に際して、個別粒子を捕らえて移動させるために研究で広く使用されている手法である光ピンセットも同時に使用しました。マイクロファイバーにおける高次モードは粒子操作が可能な方法を増やすため、光ピンセットの改良を促します。今後、研究者たちは、マイクロファイバーが捕捉粒子に関するより正確な情報を伝える機能を取り込むことによっても光ピンセットの感度を向上させるだろうと予想しています。
「極薄のファイバーの良さは、このファイバーが、我々が選択した特定のパラメータだけに影響を及ぼしながら様々な多くの物理システムの探査を可能にする非常に非侵襲的なツールであるということです」と、OIST光・物質相互作用ユニットを率いるシーレ・ニコーマック准教授は述べた上で、「本研究では、光マイクロファイバーに高次光モードを使用してミクロンサイズの粒子を捕捉することに焦点を当てていますが、同様の技術を原子レベルで使用することにより量子ネットワーク内にいくつかのビルディングブロックをつくることができます」と、語っています。
(ローラ・ピーターセン)
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