研究の最前線に在り続ける

本年2月、佐藤矩行教授の著書「Developmental Genomics of Ascidians(ホヤの発生ゲノミクス)」が刊行されました。

 本年2月、OISTマリンゲノミックスユニットの佐藤矩行教授の著書「Developmental Genomics of Ascidians(ホヤの発生ゲノミクス)ISBN: 978-1-118-65618-1」が刊行されました。佐藤教授は40年近くホヤの発生学・遺伝学研究に取り組み、2002年にはそのゲノムの解読を完成させました。京都大学で定年を迎えた佐藤教授は、さらに研究を続けたいという希望からOISTに着任し、今も最前線で研究を続けています。そしてOISTの恵まれた研究環境を活かさない手はないと考え、今までなかなか着手することが出来なかったホヤ研究の集大成を、1冊の本に纏め上げることを決意したと言います。「発生を通して進化が起こる、個体発生の理解なしに進化の理解は出来ません」と語る佐藤教授。同教授が長年研究対象としてきたホヤには、生物の進化を追うヒントが多く存在すると言います。

 ホヤは脊椎の元となる脊索を有し、ヒトを含む脊椎動物と共に脊索動物門に属します。脊索を有するホヤの発生を研究し、脊椎動物と比較することで、脊椎動物の発生と進化を知る手がかりになると考えられています。ホヤは受精卵から幼生へと成長するまでの時間が短く、発生が単純です。また発生段階での調節性が低く、受精卵が卵割により分化していく過程で、各割球が何の細胞に分化していくのかあらかじめ決定的であることが分かっています。さらにホヤの幼生は、神経・筋・脊索など各組織を構成する細胞数が決まっており、その数も少なく構造的にも単純な生物と言えます。ゲノム解読によってもたらされたほぼ全遺伝子の発現状況を調べることで、どの遺伝子がどの細胞の分化に深く関わっているかを追跡することが可能です。これまで代表的な発生遺伝学研究のツールとされてきた線虫やショウジョウバエは、脊椎動物とは分類学上の隔たりも大きく、その成果を必ずしも直接的に脊椎動物に応用することができません。本書からは、このようなホヤの発生学・遺伝学・ゲノム科学研究ツールとしての魅力も読み取ることが出来ます。

 「研究者は時間があれば自ら実験し、常により良い成果を残すことを考えなければいけません。特にここOISTは、自分自身のアイデアで研究を立ち上げ、その研究に集中して取り組める類まれな環境です」と佐藤教授は述べます。また、本書の発刊を通し、若い研究者たちにエールを送りたいとも語りました。本書の発刊は長年の構想を経てようやく実現されました。OISTで計画が立ち上がってからは一転し、同ユニットの久田香奈子技術員の助力を得ながら、約1年という短い期間で本書刊行にたどり着くことが出来たそうです。OIST着任後、教育者という立場はもとより、一研究者として自身の研究アイデアを見直すことが出来たという佐藤教授。発生メカニズムを時計の発振仕掛けと見立てると、個体発生と進化は時間の流れそのものであると考え、発生と進化をまたに掛けた研究を始めて40年、佐藤教授の研究はこれからも時を刻んでいくようです。「本書のカバーデザインも自ら手がけました」と語る佐藤教授からは、本書への深い愛着と、今後の発生学研究への期待が窺えました。

西岡 真由美

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