うちなーんちゅの頭脳が見せた底力

沖縄出身の研究者二人が、先鋭的な電子顕微鏡開発の第一線で活躍しています。

「彼らに来てもらったのは、頑張ってくれそうと思ったから。腰が据わっていて、ガッツがありそうだった。」二人の研究者を前に、量子波光学顕微鏡ユニットを率いる新竹積教授は切り出しました。

 新竹教授のユニットでは今、斬新なデザインの世界最高レベルの電子顕微鏡を開発しています。この顕微鏡が完成すると、生体サンプルの観察において、誰もがまだ見ることが出来なかった未知の世界が明らかになります。例えば、ウイルスは殻までの観察が限界でしたが、この顕微鏡では中に入っているDNAの構造まで可視化されます。他にもカーボンナノチューブやフラーレンなどのナノ粒子の精密な観察が可能になり、生物、物理そして工学の分野に広く貢献できることが期待されています。

 そして開発の主力として携わっているのが、昨年OISTに着任した「うちなーんちゅ」(地元沖縄出身)の安谷屋秀仁研究員と山城亮研究員です。この二人の息の合ったチームプレイによって顕微鏡ができあがっていきます。

 山城研究員は、OISTが沖縄に設立されたことによって、沖縄出身の研究者に将来の選択肢が広がったのではないかと言います。OISTへ赴任するまで、二人は県外で研究をしていました。安谷屋研究員は長年米国の研究所で分子に電子ビームが衝突した時の分子の挙動を調べていました。電子ビームは、電子顕微鏡で対象を可視化させるために顕微鏡の中で使われます。また、山城研究員は分子が化学反応を起こすときにどのような動きをしているかを量子力学レベルで研究し、そこでもこの顕微鏡に使うような真空装置を用いていました。二人はこれまでの知識と経験を活かし、安谷屋研究員が電子ビームの軌道シミュレーションを行う一方で、山城研究員が顕微鏡のレンズを入れる真空鏡筒の設計をしています。彼らが作業する部屋は、何時間もいると体が冷えてしまいます。それは、顕微鏡が摂氏23.5-24.5度で使うようとても精密に設計されており、温度が変わると不具合が起こりかねないからです。このような環境で、安谷屋研究員のシミュレーションをもとに山城研究員が設計を調整し、毎日何度もやりとりを重ねてパーツを完成させていきます。

 「顕微鏡開発で一番大事なことは、何より根気強さです。」と新竹教授は言います。実際、顕微鏡を作るのは想像を超えるほど細かい作業です。金属のパーツを組み合わせて作るものなので、設計でたとえ0.1 mmずれただけでもはまらなくなってしまいます。取り返しのつかない事態に陥らないよう、細心の注意が必要です。こうして細部に気を配らなければならないため、並大抵の根気では集中力が続きません。普通なら参ってしまうような作業でも、山城研究員は「一日中ずっと集中していますね。仕事ではずっと気を抜かないけれど、家に帰ればなんくるないさー、と子供と遊んで気晴らししているから大丈夫です。」と、おおらかに語り、作業に臨んでいました。

 この電子顕微鏡は今年10月頃に組み立てが終わり、微調整を重ねた上で実寸大の第一プロトタイプが完成する予定です。安谷屋研究員は「きっと新竹教授でなければ、このように誰も挑んだことのない顕微鏡を開発することはできないと思います。彼は現場を熟知していますから。現場を頻繁に訪れて教授が自ら作業工程に関わるからこそ、斬新なアイディアを形にできるのだと痛感します。」と述べました。同様に、普通の人では神経を衰弱してしまうような作業に沖縄出身の二人の研究員が根気をもって臨むからこそ、顕微鏡の完成が着実に近づいているのです。

 山城研究員は「これから沖縄の次の世代はOISTのようなところを目指して、チャンスをどんどん活かしてくれると幸いです。」と語り、安谷屋研究員も「沖縄の人が自分の道を見つけて才能が開花することを願っています。」と、沖縄の将来に向けて前向きに語りました。

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