貴金属よりも鉄:重要な化学反応を低コストで環境に優しくする鉄触媒
触媒は、多くの化学反応において重要な役割を果たします。ある分子が別の分子に変化するのを助け、それ自身は変化しないため、繰り返し使用することができます。しかし、多くの触媒は貴金属でできているため、コストが高く、環境に悪影響を与える可能性もあります。そこで研究チームは、より豊富にある金属である鉄を用いて「オレフィンメタセシス反応」という重要な化学反応を促進する触媒を設計し、その研究成果をNature Catalysis誌で発表しました。
本研究に携わった沖縄科学技術大学院大学(OIST)、竹林智司博士は、次のように説明しています。「オレフィンメタセシス反応は、炭素-炭素二重結合の形成に最も広く使われている触媒反応の一つです。炭素-炭素二重結合は、多くの化学製品にみられる重要な結合です。」
オレフィンは、炭素-炭素二重結合を持つ化合物の一種です。オレフィンメタセシス反応では、オレフィン同士が炭素原子を交換することで、新しい炭素-炭素二重結合ができます。触媒は、元の二重結合を切断して新しい二重結合を形成させることにより、この組み換えを促進します。
現在、オレフィンメタセシス反応を促進する触媒には、貴金属であるルテニウムが頻繁に使用されていますが、本研究では、より豊富な金属である鉄を使用した触媒を作ることで、プロセス全体をより低コストで、環境に優しくすることを目指しました。ルテニウムと鉄は周期表で同じ族に属しており、似たような性質をもつと考えられているため、化学者はこの目標を達成する方法を長年模索してきました。
本研究では、新しい鉄錯体を設計し、オレフィンメタセシス反応の触媒として使用できることを実証しました。炭素-炭素二重結合の切断と生成によって小さな化学分子が連結して鎖状分子を形成することを証明したのです。
本研究は鉄触媒の可能性を示すことに成功しましたが、竹林博士は、ルテニウム触媒の方が鉄触媒よりもはるかに応用範囲が広いことを強調しています。これは、鉄触媒は活性が低く、空気や湿気に対して不安定であるためです。ルテニウム触媒に代わる鉄触媒を開発するには、この問題を解決する必要があります。
竹林博士は、次のように締めくくっています。「この研究は、この分野の他の研究者の役に立つ可能性があります。今回の研究成果から、鉄触媒の開発が進むことを期待しています。」
To learn more about this research, please see this blog post written for Chemistry Community by Dr. Takabayashi.
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