速く安価にサンゴ礁をモニタリングする強力な新技術

海水1リットルからサンゴ礁に生息するする造礁サンゴの種類を判別できる遺伝子解析技術を開発しました。

本研究のポイント

  • 世界的なサンゴ礁生態系の減少を食い止めるためには、サンゴの多様性をより深く理解する必要があります。
  • 本研究では、「PCRプライマー」という短いDNA断片を用いて、サンゴ礁の表面から採取した海水1Lがあれば、そこに棲息する造礁サンゴの多様性を調べることができる技術を開発しました。
  • 沖縄県恩納村近海の3つの異なるサンゴ礁を対象に、海水に含まれる周辺環境に存在する生物のDNAすなわち環境DNAを用いました。
  • PCRプライマーを用いて環境DNAを解析した結果、合計26属のサンゴを検出しました。
  • この新技術は、より正確で、より手軽なサンゴ礁モニタリング法の開拓を意味し、世界中のサンゴ礁保全と回復のための一助となり得ます。  

概要

沖縄科学技術大学院大学 (OIST)、東京大学、沖縄県環境科学センターの研究者らは、サンゴ礁表面海水に含まれるDNAを分析することで、そこに生息する造礁サンゴの多様性を感知できる新技術を開発しました。2021年11月30日付けで科学誌Frontiers in Marine Scienceに掲載されたこの強力な新技術は、サンゴ礁モニタリングのより正確でより簡便な方法を開拓するものであり、世界中のサンゴ礁の保全・回復に向けた活動の一助となり得ます。

OIST マリンゲノミックスユニットの研究員、西辻光希博士は、サンゴ礁の重要性を、「多様性に富み、海洋生物の約25%の種が生息しているだけでなく、高波や浸食から海岸線を守るなど、世界中の何百万もの人々に食料や生活の糧を提供しています」と説明します。「しかし地球温暖化の影響によりサンゴが死滅し、サンゴ礁が消滅しつつあります。我々は沖縄をはじめとするサンゴ礁をなんとか保全し回復させたいと考えています。そのためにはサンゴの多様性を理解する必要があります。この新技術によって、サンゴ礁の多様性を正確かつ簡単に調べることができます。」

環境DNA解析のための採水を行なった3地点のうちの1つ。研究員の西辻光希博士は「サンゴが美しいことは誰もが認めるところですが、その多様性や重要性は一般にはあまり知られていません」と語ります。

従来は、サンゴの生育状況を調べるために、ダイバーが定期的に現地で潜って観察し、その変化を記録してきました。しかしサンゴは、異なる種類でも形状や色が似通っていたり、同じ種であっても形状や色が異なることもあり、ダイバーによる直接観察法は、時間がかかるだけでなく、正確に多様性を知るには高度な専門知識も必要でした。

本研究では、ダイビングをせずに多様性を調べるために、PCRで用いるためいるための短い「DNAプライマー」という強力な識別手法を開発しました。このプライマー は少なくとも36属の造礁サンゴに共通する塩基配列であり、PCR後のDNA配列をもとにサンゴの属を判別することができます。

このプライマーで実際にサンゴの種類を判別できるかどうかを実証するために、沖縄県恩納村近海の3地点から海水サンプル1リットルを採取しました。海水には一見何も含まれていないように見えますが、実は周辺環境に生息する生物のDNA、すなわち「環境DNA」が沢山含まれています。それを解析することで、そこに棲むサンゴの様子を知ることができます。サンゴの場合、海水中に放出する粘液にサンゴDNAが含まれています。

研究チームは、海水に含まれるわずかなサンゴDNAを、開発したプライマーを使って何倍にも増幅しました。その結果、サンゴを識別できる塩基配列の解析を可能にしました。

解析の結果、様々な属のサンゴが確認され、環境DNAの組成は採水地点ごとに異なっていることが明らかになりました。2地点間の距離はわずか730mしか離れておらず、環境DNAの中身、つまり各地のサンゴ群集は1km以内ですら異なっていることが示唆されました。

さらに、従来の目視による識別と比較したところ、両者の結果にはほとんど差がありませんでした。両者が同程度の精度を持っていることが示された結果、ダイビングも現場での高度な専門知識も必要としない環境DNAを用いた方法で、より簡便にサンゴの観察をできることが示唆されました。

「環境DNAを用いたサンゴ研究は、これまでにもいくつか報告されています。しかし、それらは、サンゴに対する感度が低かったり、特定種の同定に限定されていました。この研究で重要なことは、我々が開発したプライマーは恩納村近海の海水から26もの異なる属のサンゴを同定することができ、さらにより多くの属を同定できる可能性がある、ということです。今後は、環境DNAからより多くの種を同定できるように方法を改良していくつもりです。そうすれば世界中のどこでもそれぞれのサンゴ礁にどんなサンゴが存在するかを理解でき、その多様性を維持するために何をすべきかを正確に知ることができるでしょう」と西辻博士は述べています。

論文詳細

論文タイトル: Novel mitochondrial DNA markers for scleractinian corals and generic-level environmental DNA metabarcoding
掲載誌: Frontiers in Marine Science
著者: Chuya Shinzato, Haruhi Narisoko, Koki Nishitsuji, Tomofumi Nagata, Nori Satoh, Jun Inoue
DOI: 10.3389/fmars.2021.758207
掲載日: 2021年11月30日

関連情報

本研究につきまして、OISTは、座間味村、一般社団法人座間味村観光協会、株式会社NTTドコモ九州支社と共同で、座間味村における水中ドローンを活用した実証実験を開始し、環境保全・観光促進の取り組みに参画しております。本件に関してのプレスリリースは、以下をご覧ください:

https://www.docomo.ne.jp/info/notice/kyushu/page/220311_00.html

 

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