ヒトの細胞分裂をスムーズに進める仕組み
概要
沖縄科学技術大学院大学(OIST)膜生物学ユニットの河野恵子准教授と東京大学医科学研究所の中西真教授らの研究グループは、ヒトの細胞分裂をスムーズに進めるのに重要な分子メカニズムを解明しました。この研究成果は細胞分裂という生命の根幹となる仕組みの一端を明らかにするとともに、将来的にはがんを始めとする様々な疾病の治療法開発につながる可能性があります。
本研究成果は2019年2月28日発行の英科学雑誌Nature Communicationsに掲載されました。
研究の背景と経緯
ヒトの細胞は様々な形をとっていますが、細胞分裂期にはほぼ完全な球形となり、遺伝情報を担う染色体が細胞の中央に整然と並ぶことが知られています。そしてこのように染色体が並ぶ空間がなくては、二つの娘細胞に均等に遺伝情報を振り分けることができません。細胞が球形になるときには、まず細胞の表面が硬くなります。そして染色体が整列した後は細胞の硬さが一定に保たれます。このように染色体が整列した後にどうやって細胞の硬さを一定に保っているのか、そして細胞が硬くなりすぎるとどのような問題が起こるのかはこれまで全く分かっていませんでした。
研究内容
今回の研究では、HeLa細胞というヒトの子宮頸がん由来の細胞を用いて、これらの問題を解明しました。これまでの研究から、細胞周期の移行を促すサイクリン依存性キナーゼというタンパク質が、細胞膜を裏から支えるアクチン繊維の重合を促進するのに加え、ミオシンを活性化し、細胞の表面を硬くすることが分かっていました。今回新たに発見されたのは、染色体が整列した後にはサイクリン依存性キナーゼがそれまでとは逆にアクチン繊維の重合を抑制しているということです。さらに、アクチン繊維の重合を抑制できなくなるように遺伝子変異を導入した細胞では、細胞表層が異常に硬くなり、染色体が二つの娘細胞に振り分けられるタイミングが遅れることが分かりました。
研究成果のインパクト・今後の展開
OIST准教授で、本研究論文責任共著者の河野恵子は、「これまでは細胞が柔らかいままでは細胞の球形化が上手くいかないことは知られていましたが、反対に硬くなりすぎてもよくないことを見出したのはこの研究が初めてです。」と、本研究の成果について述べます。
今後は、細胞が硬くなりすぎると分子レベルでどのような問題が起き、染色体の分配が遅れるかをさらに解析するとともに、難聴やがんなど今回の研究に関わる遺伝子の異常による疾病の治療にこの成果を生かせないか検討していきます。