スーパー台風の上陸に亜熱帯の森が見せた、想定外の耐久力 ― しかし、気候変動で危機迫る
森の中で木が倒れても、その音を聞く人が周りにいなかった場合、その時その木は本当に音を立てているのでしょうか。沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームが、沖縄の森林のサウンドスケープ(音の風景)を無人で録音し、台風が沖縄の生態系に与える影響を追跡することで、この疑問に答えました。分析の結果、森林には驚くほどの耐久力があり、サウンドスケープが、保全活動の指針策定の際に重要な情報を提供する一助となり得ることが分かりました。
スーパー台風平成30年台風第24号(英名:Trami)が沖縄地方に被害をもたらし、その6日後には24号よりやや勢力の弱い平成30年台風第25号(英名:Kong-Rey)が沖縄地方に接近しました。OISTとダブリン大学トリニティ・カレッジの研究チームが、これらの台風が野生生物に与える被害を探るべく、台風の前後と最中に収集されたサウンドスケープの中から、約1万3000時間に及ぶ音声を分析しました。
これらのサウンドスケープはOKEON 美ら森プロジェクトの一環として収集されたもので、24か所のモニタリング・ネットワークは北部の手付かずの森から南部の都市部まで、沖縄本島全域を網羅しています。同プロジェクトは、研究者、地元沖縄の専門家・機関、そして市民らの緊密な連携によって成り立っています。
「生態系で得られた膨大な音声データを扱うことで、理論や実験室での実験では観察が難しい、異常気象に対する現実世界の反応をより総合的に捉えることができます」と、科学誌Global Change Biologyに掲載された論文の筆頭著者、OIST統合群集生態学ユニットのサムエル・ロス博士は話します。
録音を数値データに変換することで、24地点のそれぞれで、動物の鳴き声の全体的なレベル、いわゆるバイオフォニーを検出しました。さらに、機械学習を用いることで、沖縄に生息する3種類の鳥の鳴き声を迅速に特定し、それらの鳥の時間的・空間的追跡が可能になりました。
沖縄本島は比較的小さな島であるにもかかわらず、スーパー台風に対する反応は各地点で異なっていました。「生態系は台風に対してどこも同じような反応を示すだろうと予想していたのですが、意外なことに全く逆の結果が得られました」とロス博士は話します。
台風によって生息地が破壊され、野生動物が静かになるのではなく、マイクが拾った鳥の鳴き声はそれぞれの地点で異なりました。また、この反応の違いは土地の開発状況の有無によって説明できるものでもありませんでした。「私たちは、開発された場所の耐久力の高さに驚きました」とロス博士は説明します。「人間が生態系の構造を変えてしまった場所は、より脆弱になると予想していたからです。」
しかし、その耐久力は長くは維持できない可能性があります。気候変動により、台風はより頻繁に、大きく、長く、内陸にまで被害をもたらすようになっています。かつては、台風第24号ほどの勢力の台風は稀でしたが、2023年8月にも同様の台風が発生しています。「沖縄の生態系は異常気象にある程度適応している可能性があり、台風に対する生態系の耐久力はその適応によって説明できるかもしれません。しかし、気候変動は沖縄の生態系の限界にまで追い込む可能性があります」とロス博士は話します。「生態系が幾度も極端な台風に打ちのめされれば、やがて耐えられなくなる時が来るでしょう。」
OKEON美ら森プロジェクトのような音声モニタリング・ネットワークは、コストと労力のかかる従来の生態系モニタリングの代わりとなり得るものです。また、このアプローチを通して、脆弱な地域における地域保全活動に対する勧告を行うこともできます。本研究では、ハシブトガラス、リュウキュウコノハズク、ウグイスの3種の鳴き声を追跡しました。ハシブトガラスとリュウキュウコノハズクは異常気象に耐えましたが、ウグイスの鳴き声は減少し、台風による影響が示唆されました。このような知識があれば、沖縄の生態系を管理するうえで、自然災害の影響を最も大きく受ける種に保護活動の焦点を絞ることもできるようになります。
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