科学界でのメンターシップ:インクルーシブであるために
メンターシップは、メンター(助言する側)とメンティー(助言を受ける側)の双方が努力し、働きかけるという双方向型において最も効果を発揮します。互いに信頼関係を築き、メンターが時間をとってすぐに相談に応じてあげることも大切な要素です。また、偏見や固定観念が組織内にないかどうか気づくことも極めて重要です。一般的に、メンティーよりもキャリアを積んでいる人がメンターとなることが多いですが、最近では逆の場合でも有効であることが分かっています。沖縄科学技術大学院大学(OIST)のプロフェッショナル・ディベロップメント&インクルーシブ・エクセレンスセンター(C-Hub)によって開催された「The Inclusive Mentoring Mini-Symposium 2022(インクルーシブメンタリング・ミニシンポジウム2022)」では、このような内容を含むテーマが話し合われました。
OISTで2021年に発足したC-Hubは、個人の専門的能力の開発を助け、多様性があり公正でインクルーシブな文化の醸成を支援するべく、個別コンサルテーション、認定プログラム、ワークショップ、助成金などを提供するセンターです。、これらの活動はエビデンスに基づく実践や研究を基に設計されています。2022年2月16日から17日にかけてC-Hubが初めて開催したシンポジウムには、合計150名の参加登録がありました。3名の登壇者が基調講演を行い、学生や教員によるパネルディスカッションや、参加者が気軽に意見を交わせる分科会などが行われました。
C-Hubのシニアコンサルタントを務めるキャシー高山さんは、次のように述べています。「科学的イノベーションを起こし、創造性や卓越性を発揮できるかどうかは、未来の科学者となる多様な人材をいかに確保し、育成できるかにかかっています。研究機関がこれを達成するためには、インクルーシブかつ公正で、すべての人が成長できるような教育・研究環境を醸成する必要があり、私たちの一人ひとりにその責任があります。インクルーシブなメンターシップは、チームの成功や繁栄、成果をだせる協働・協力体制やコミュニケーションにおいて欠くことのできない最も重要なものであり、何代にも続く次世代のメンターやメンティーに影響を与え続けるものです。」
高山さんはさらに、インクルーシブなメンターシップが生涯にわたってさまざまな影響を与えるということが一層明らかになったと言います。このシンポジウムで、仲間同士のメンターシップ、共感、学び続けることに対する意欲や姿勢に加え、少数派や見過ごされている人々を支援するために各自が持つ特権や力を活かすことが、いかにポジティブで大きな影響を与えるかということが発表や議論の中で繰り返し取り上げられました。
このシンポジウムは、効果的かつインクルーシブな科学分野のメンタリングを推進している機関や個人に特に焦点をあてており、「未来の科学者がインクルーシブな研究環境を積極的に作っていくためにはどうすればよいか」という課題や、「インクルージョンや公正性を妨げる組織的な慣行に対処するために、インクルーシブなメンタ―シップが意図的に行われるような方法をどのように編み出していくことができるか」といった重要な課題に対して解決策を探ることを目的として企画されました。
基調講演では、科学誌ネイチャーの編集長であるMagdalena Skipper博士が、メンターシップは共同作業であることについて、ブラウン大学カーニー脳科学研究所所長のDiane Lipscombe教授がメンターシップが有益であることについて、そして著名な微生物学者でOIST理事を務めるリタ・コルウェル教授が「リーダーとしての女性」というテーマで、それぞれ講演を行いました。
OIST博士課程4年生のラクシュミプリヤ・スワミナタンさんは、最初の学生パネルディスカッションに参加し、自身を正しい方向に導きながらも、その過程で教訓を学ばせてくれたメンターの存在が重要であったと語りました。「私が幸運だったのは、助言を必要とするときにいつでも相談に乗ってくれて、私の研究の仕方を見極め、それに基づく適切な助言を与えながらも、自分で解決方法を見出せるよう距離を置いて見守ってくれたメンターに恵まれたことです。」
OIST博士課程5年生のラチャパン・ロッラッタナダムロンさんは、2回目の学生パネルディスカッションで、留学生に対するメンターシップの在り方について意見を述べました。「その国で大学を卒業していない留学生は、本来大学で得られるネットワークがありません。メンターは、このような留学生のニーズを理解し、支援してくれる人々を紹介してあげることも必要かもしれません。」
2回にわたって行われた教員パネルディスカッションでは、エイミー・シェン教授とトーマス・ブッシュ教授、そして田中和正准教授とマリルカヨエ・ウーシサーリ准教授の各2名が登壇しました。多様性のあるチーム作りや、組織として偏見の問題に取り組む責務、そして困難な状況下でも効果的なメンターシップが行われるように努力することなどの重要性を強調しました。
最後のセミナーでは、リタ・コルウェル教授が、女性研究者のパイオニアであるがゆえに経験した数々の困難について語り、有害な環境に置かれている同僚のために声を上げることと、無意識の偏見をなくすために部署や学内組織の壁を越えてメンタリングを行っている個人の努力を研究機関が認め、称えることを助言しました。
C-Hubは、本シンポジウムに対する強い関心と心強いフィードバックを受け、今春、教員、学生、研究者、職員を対象とした「Peer Mentoring Circles Program(ピアメンタリングサークルプログラム)」を新たに開始するほか、「OISTにおけるインクルーシブなメンタリングガイド」というマニュアルを出版し作成し、定期更新していく予定です。 さらに、「Inclusive Scientific Communication(インクルーシブな科学コミュニケーション)」、「Best Practices in Pedagogy(教育学のベストプラクティス)」、「Course Design(コース設計)」などの認定プログラムや、多様性、公平性、インクルージョンに関する研修会などを行う予定です。