非球状粒子をシェイプアップ
沖縄科学技術大学院大学(OIST)のマイクロ・バイオ・ナノ流体ユニットによる新たな研究は、溶かしたワックス(蝋)の液滴を冷却液中に滴下し、様々な非球状粒子を作製する方法を対象にしています。本手法を物理学的に掘り下げることで、様々な非球形の形状が生み出される原理が説き明かされた上で再現可能となり、多くの産業用途への応用が期待されます。科学誌 Journal of Colloid and Interface Science に掲載された本研究の実施にあたり、OISTのエイミー・シェン教授は、元指導学生である米国ワシントン大学大学院博士課程のシルパ・ビーサバスナイさんのほか、米国プロクター・アンド・ギャンブル社とも連携しました。
非球状粒子はその多様な形状に伴う特性から、非常に多くの産業への応用可能性を秘めています。大きな表面積や高い充填密度、外部電界や磁界に対する特異的な反応等の特性により、食品加工、化粧品等の消費財、吸収剤、薬物送達システムに至るまで幅広い用途に役立てることができます。
これまでの研究で、ミクロンからミリメートルのサイズの非球状粒子を作製する際に複数の製造方法が編み出されてきましたが、いずれも応用範囲が限定され、通常特殊な装置を必要とします。一方、シェン教授のユニットで用いられている本手法は、簡単で低コスト、規模の最適化が可能かつ、様々な種類の流体に適用できます。溶かして形成した液滴を固化させるため低温の液体(冷却液)中に滴下すると、液滴が冷却液面に衝突した瞬間から複数の変量の作用が絡み合い、一個の非球状粒子が形成されます。
このように、溶かして作られた液体(この場合のワックス)と低温液体媒質の間の衝突・凝固現象を利用して異なる形状を持つ粒子が生み出されます。しかしその根底にある物理的原理は、本研究が開始された当初完全には理解されていませんでした。どのような形状が作製可能であるかを探るために、本研究ではワックスの温度や液体層の温度、液体層の密度及び粘度、溶融液滴の衝突速度等多くの変量を考慮しました。
これらの変量のバランスをとることで、4種類の形状が本研究を通して現れました。それらは、楕円状、キノコ状、フレーク様形状、及び円盤状です。高速画像解析に加えて、簡易熱伝達モデルにより、個々の溶融ワックス液滴が冷却液体層と接触後固化するのに要する時間を推定し、各形状が発達する際の時間スケールをそれぞれ明らかにしました。こうして得られたデータは、同じ4種の非球形状を繰り返し確実に作製できるようにするとともに、今後同様の方法を用いて新たな種類の粒子を生みだすための技術基盤となり得ます。
シェン教授は、「これまで液体金属の固体表面への衝突については類似の研究がなされてきましたが、他の液体への衝突に関してはなされてきませんでした。本研究は基礎物理学の研究としてユニークであると考えています。また産業的応用の観点でも非常に重要です。この方法はシンプルかつ低コストであり、さらにサイズの最適化も簡単にできるからです」と説明しました。特にワックス系粒子は融点が低いため、化粧品分野での活用が見込まれます。それだけでなく、医薬品用カプセルによく用いられる温度感受性高分子やハイドロゲル材料に対して、同様の方法を応用することも可能だと同教授は考えています。本研究成果は新たな非球形カプセル製造技術の開発につながり、薬物送達に役立つかもしれません。
(ショーン・トゥ)
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