流れにのる

OISTのコンピュータシミュレーションは、流体にアクティブ(自己駆動)微粒子を加えることが産業上の新しい応用につながることを示しました。

 従来の研究から、バクテリアなどの液体中に分散された自己駆動エージェントの量が十分に多ければ、それらを動力源としてミクロな歯車やラチェットを回転させることができるということは既に知られていました。新たに、バクテリアも藻類のように流動環境での輸送や物質の置き換えとして利用できることが分かりました。沖縄科学技術大学院大学(OIST)の科学者たちが科学誌 Soft Matter(ソフトマター)に発表した研究では、機械的な仕組みに相互作用する生物の例を真似て人工作的に合成された系を作ることができるかを判断するために、自己駆動エージェントと受動エージェントにおけるエージェント間の相互関係を注意深く調べました。OISTソフトマター数理ユニットのデニス・ヒンズ博士とエリオット・フリード教授はそういった混合系の最小モデルを導入することで、どのようなメカニズムで目的の効果を実現しているのかを調べました。

 自己駆動エージェントと受動エージェントが混在する系の最も良い例はバクテリアコロニーです。「多くの場合にそのような集合体は不均一、つまり異なる種のバクテリアから構成されています。バクテリアには自己駆動できる種もあるため、自分で動き回ることができるものとそうでないものが混在することになります」とヒンズ博士は説明します。この研究の狙いは、自己駆動エージェントの集合が、ある量の受動エージェントを動かすことが可能かという基本的な問いに答えることにあります。

 混合系の粒子またはエージェントの多さを表す密度と自己駆動エージェントの活力の2つのパラメータを通して、流動パターンを可視化し解析する数値シミュレーションが開発されました。エージェントを分散させる媒質として水を想定しています。このシミュレーションの完成により、ヒンズ博士とフリード教授は、これら2つのパラメータの変化に依存して明確に異なる3つの相、メソ乱流相、極的群(Polar flock)相、渦相が現れることを発見しました。これらの相はそれぞれ、ランダムな流動パターン、1つの軸に沿った流動パターン、そして複数の点を渦巻く流動パターンとして特徴付けられます。

 目的の流動パターンを作り出すためにどれだけ多くの自己駆動エージェントが必要かを見出すためには、特定の流れや効果を最も効率良く達成するメカニズムを理解するだけでなく、いつどのように流れの相互作用が起こるのかを理解することが鍵となります。ヒンズ博士は「少量だけどより強い自己駆動エージェントがある方が効率的なのか、それとも弱いけれど大量の自己駆動エージェントがある方が効率的なのか?というような疑問が生じます」と付け加えます。このことは全てが人工の混合系を作る時にとりわけ重要です。というのは、バクテリアの代替となる、ヤヌス粒子、光活性粒子、高分子ベースのナノモーターやロボットの群れといった自己駆動粒子を作るのは困難だからです。

 シミュレーションによって得られたデータを調べたところ、動的な3つの相とそれらに関連する流動パターンは全て比較的少ない割合の自己駆動エージェントによって実現できることが明らかになりました。この結果は有望です。なぜなら、目的の流動パターンを得るために高コストで作るのが難しい粒子やナノマシンを大量に必要としないことを示唆しているからです。本研究結果は、水質浄化や自己出力型の薬物送達システムといったマイクロ流動プロセスを含む広範囲の応用の研究の基礎となるでしょう。

 (ショーン・トゥ)

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