生命情報科学若手の会・沖縄セミナー
OISTでは9月1日~4日にかけて、情報生物学分野の若手研究者によって構成される生命情報科学若手の会とともに、「生命情報科学若手の会・沖縄セミナー」*** を開催しました。本年3 月の東日本大震災では、東北地方の大学や研究機関に大きな被害があり、OISTでは、被災された学生や研究者を支援する意思を表明してきました。今回のセミナーは、依然厳しい状況に置かれる皆さまを応援したいという思いから企画され、計42名が参加しました。
生命情報科学(バイオインフォマティクス)とは、バイオ(生物)とインフォマティクス(情報)が融合した研究分野で、情報応用数学、統計学、応用物理学、コンピューターサイエンス、計算科学などの技術応用によって生物学の問題を解こうとする学問です。本セミナーでは、国内の気鋭の情報生物学者6 名を講師に迎え、一日目の実習では、ネットワーク上にあるサーバーのコンピュータを間借りするクラウドコンピューティングへの接続の仕方や、統計処理言語のRやBioRubyの使い方、遺伝子発現データベースの検索方法などを学びました。参加者の傍らで講師がやり方を説明したり、全体の進み具合に合わせて柔軟に進行するなど、懇切な指導を受けていました。そして二日目は、これらの情報技術を実際の研究に活用している講師の方々から、「ゲノム解析」「トランスクリプトーム解析」「進化解析」などをテーマに発表があり、多くの参加者にとってまだ不慣れな生命情報科学研究の魅力を肌で感じる機会となりました。
荒川和晴博士
実習で生命情報科学用のクラウドコンピューティングのAmazon EC2について紹介した荒川和晴博士(慶應義塾大学先端生命科学研究所)は、大量のデータ計算を可能にするこのシステムについて、「今回の震災でコンピュータ施設も大きな損傷を受けたと聞きますが、インターネットに接続さえできればクラウドを使って研究が続けられますし、節電対策で強制的に電源を断たれてもデータは保存されているので安心です。」と説明した上で、パソコンなどの計算機を購入する初期費用が低価格ですむことや、必要な時にコンピュータの電源を入れて、利用時間に応じて課金される同システムの利点を挙げました。
東北大学理学部生物系3年の勝部達也さんは震災後、将来への不安を抱え積極性を失いつつあった中で、旅費や滞在費の支援に後押しされて参加を決めました。勝部さんは本セミナーに参加し、実際の作業から学んだことで、難しいと感じていたインフォマティクスへの敷居が下げられただけでなく、その将来的な必要性を実感し、もっと学びたいという意欲が生まれたと語ってくれました。
参加者の多くは日頃生物学的な実験を行っていますが、生命情報科学の基礎から応用まで幅広く学ぶ機会を得た今回のセミナーには、一様にとても有意義であったとの感想が寄せられました。また、OISTについては、最新の研究設備が整っていることや、眼下に美しい海が広がり、周りを山々に囲まれたキャンパスは、研究に集中できる素晴らしい環境との意見がありました。さらに、生命情報科学分野で日本の将来を牽引する講師の方々と寝食を共にして強い刺激を受けたとの感想が寄せられました。
セミナー開催にあたり中心となって準備を進めたOISTマリンゲノミックスユニットの川島武士博士は、「参加者がリラックスした気持ちで先端科学技術を学ぶのに最適という理由からOISTが会場に選ばれましたが、その目的が達成できただけでなく、懇親会などの機会を通じてネットワークづくりができました。」と振り返り、若手中心のこうした研究会の意義を強調していました。
*** 本セミナーは、 (財)沖縄科学技術振興センターと、日本バイオインフォマティクス学会(JSBi)の沖縄と東北の地域部会、Bioinformatics Programing Contest等から、災害によって先端研究の歩みが滞ってしまうことがないようにとの思いから、資金面を含む様々な支援がありました。
(名取 薫)