物理学に不可欠な創造性
OISTフェムト秒分光法ユニットを率いるケシャヴ・ダニ准教授は、1000兆分の1秒に当たるフェムト秒の時間領域で物質中の電子に起きる物理現象を理解することをめざしています。
「物理学の問題を解くには創造性を必要とします。芸術的な創造性によって知的な解答を探る―私はそこに魅力を感じて物理学者の道を選びました」と、ダニ准教授は語ります。フェムト秒分光法ユニットでは、1012ワットの強力な光を発生する大出力レーザーを用いて、フェムト秒(10-15秒)の時間に移動する電子をナノメートル(10-9メートル)の精度で測定します。
「私は、フェムト秒の時間領域で物質中の電子が『どのような動きをして、互いにやり取りするのか』ということに興味があります。例えば、インターネットの速度を上げたい場合には、超高速な時間スケールでの既存の物質中の物理現象について理解しなければなりません。あるいは、もっと高速で応答する新たな物質の開発が必要となります。」とダニ准教授は言います
ダニ准教授は、ユニークな光学特性を持つ金属、半導体および絶縁材で構成されるナノ構造体にも着目しています。また、ブラックホール中にある電子と同様の電子が見られるグラフェンのような物質にも関心を示しています。
これらの物質に、瞬間的なピーク出力が世界最大の水力発電所に匹敵する強力な光のポンプ・パルスを「当てる」と、通常は安定な不活状態にある物質中の電子が励起され振動し始めます。ダニ准教授の研究グループでは、これより弱い光源を用いてこのような物質を繰り返し調べています。この光源は「プローブ・パルス」といわれ、励起状態から元の安定状態に徐々に移行するときの物質の特性を測定することができます。
OIST着任以前は、米国ニューメキシコ州にあるロスアラモス国立研究所の統合ナノテクノロジーセンターに勤務していたダニ准教授。カリフォルニア工科大学卒業後、カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得しました。ダニ准教授は長年にわたり、理論数学、量子コンピューティング、超高速分光法等の分野で研究をしてきました。OISTでは、これまでの経験に新しいアイデアを組み込むことにより、ナノスケールの炭素系構造物および新しいナノフォトニックデバイスについて研究する予定です。
(ジュリエット・ムセウ)
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