新研究ユニットの紹介:美しいウイルス
マティアス・ウォルフ准教授は、薬剤師になるはずでした。本人によると、「生命の本質的な特性の方により関心があった」にもかかわらず、大学では薬理学を勉強したそうです。しかし、その後ウォルフ准教授は進路を変え、生物物理学で博士号を取得してからは生体分子の構造に関する研究を行っています。現在、OISTの生体分子電子顕微鏡解析ユニットの代表として、同教授はウイルスの構造について主に研究しています。
ウイルスの被覆は上下左右対称であるため、その構造は比較的調べやすいとウォルフ教授は説明します。その上で同教授は、「ウイルスはまるで映画スター・ウォーズのデス・スターのようです。一部の人には恐ろしいものに見えますが、私には美しく見えます。」と語ります。ウイルスを画像化するため、ウォルフ教授の研究チームは、試料に高エネルギーをもつ電子を衝突させる電子顕微鏡法を用いています。電子衝撃はウイルスの被覆を構成するタンパク質の構造を損傷する可能性があるため、同教授は低線量の電子を用い、それによって生じる画質の低下を、同一ウイルスの画像情報を多く組み合わせることによって補った上で、より完全な画像を得ています。
ウォルフ教授の研究チームは研究対象に乳頭腫ウイルスおよびポリオーマウイルスを用いて、ウイルスがどのように細胞を捕え、細胞膜に穴を開け、ウイルス自身の遺伝物質を宿主細胞に注入して感染させるのかを重点的に調べています。「我々の目標は、何が起こっているのかを見せてくれる分子の映画を作ることです。」とウォルフ教授は述べています。そのためには膨大なデータが必要であり、そのためにはOISTの最先端の電子顕微鏡を自動化して、多くの画像を自動的に撮影し、収集することを計画しています。また、それらすべてのデータを処理するための新しい計算方法を考案することも必要です。
ウォルフ教授は何年も前に薬理学分野から去りましたが、研究の状況によっては、最終的には再び戻ってくることになるかもしれません。同教授はウイルスが細胞にどのように感染するのかを正確に解明し、この仕組みを妨害する薬物を特定することを目指しています。したがって、ウイルスを美しいと思う彼の審美眼は、ウイルスの脅威を軽減するのに役立つかもしれません。
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